大幅に工期を短縮して再建した新阿蘇大橋

大成建設は災害からの迅速なインフラ復興の技術を磨いている。過去の施工ノウハウを蓄積し、状況に合った建設計画を即座に提示したり作業員の確保を迅速に進めたりするなど、ライフラインの早期再建につなげる。被災地復興で培った技術は平時の工事にも活用する。平時と災害時の「二刀流」で技術力を高め、「災害列島」日本のインフラを支える。

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1月の能登半島地震で多くの箇所が寸断された幹線道路「のと里山海道」。大成建設は複数の崩落箇所を抱えた工区を受け持った。確保済みの1車線交通を止めずに重機を使って道路を広げるには綿密な段取りが必要だ。

崩落が再び起こればその後の復興工事は遅れる。どこにどのくらいの深さまで斜面に鋼材を打ち込めば地盤を固定できるか。やり直しが発生するリスクを抑え、安全に作業できる策が採用された。順調に工事は進み、2車線交通を確保する応急工事を3月中に終えた。

迅速な災害復興は「ゼネコンの使命」

現場に最善策を提示したのが本社の技術室だ。様々な工事に役立つ技術を蓄積し、支店横断で磨いている。橋やダム、鉄道などの工事領域に分かれ、21年に高速道路のリニューアル分野で新設するなど現在は10のチームが組織され、10年以上の経験を持つ計80人が常駐する。安全を確保しつつ工費削減につながる工期短縮の工法や技術を考案する。有事の際には現場が抱える技術的な課題を解決する。

「災害からの迅速なインフラ復興はゼネコンとしての使命」。相川善郎社長がそう話す大成建設には災害復興で語り継がれる案件がある。16年の熊本地震で崩落した阿蘇大橋に代わる橋の高速建設だ。

熊本県南阿蘇村の渓谷にかかる全長525メートルの新阿蘇大橋は熊本市と南阿蘇地域を結び、観光の交通を支えている。同年4月に発生した熊本地震で崩落した阿蘇大橋の復興を大成建設が担った。

「目標の工期に比べて現場の条件がこれほど厳しいとは」。現地入りした大成建設の社員は頭を抱えた。橋は橋脚と橋脚の間が最大165メートルあり、高さは最大97メートルに達する。しかも崩落した斜面が急だ。

入札時点で、谷底のはるか上にある橋桁まで足場を建てずに橋脚や橋桁を効率よく構築する策は提案していた。だが崖の下までの資機材の輸送が問題となった。崖の途中に足場とクレーンを設置しようにも、風速10メートル以上の突風や視界を妨げる霧が作業を阻む。

実際、他社が先に進めていた最低限の作業道路を確保する工事などが難航していた。20年度中の橋の完成を目指していたが、遅れが現実味を増していた。

焦る現場に助け舟を出したのが本社の技術室だ。崖に敷いた鋼製レールに沿って巨大な台車をケーブルカーのように動かす「インクライン」を提案した。鉄筋や生コンクリートを積載した車両ごと、計60トン分を橋のたもとから40メートル下までわずか6分で運ぶ。夜間でも騒音が小さい上、天候に左右されずに動き続ける。

「構造がシンプルでメンテナンスさえすれば故障しにくい。運搬量が担保されるので工程が管理しやすい」(当時、作業所長の園部文明氏)。台車の製作費などがかさむため導入には数億円がかかるが、クレーンの台数や足場の数が減る上に工期も縮むため、全体の工事費は下がる。スムーズな輸送が工期短縮に貢献した。

結果として5年半かかる見込みだった橋の工期を1年4カ月短縮し、21年3月に完成させた。

迅速な災害復興が目的だとしても、受注した工事で実績のない新技術を提案しては発注者の合意は得られにくい。採用を後押ししたのは他支店であげた実績だ。中日本高速道路(NEXCO中日本)が発注した舞鶴若狭自動車道の福井県内の橋の工事で入札時の提案にインクラインを盛り込み、14年に完成させていた。

人手不足をDXでカバー

ほかにも21年に静岡県熱海市で発生した大規模土石流の被災地でも技術室が活躍した。砂防ダムや川にたまった土砂の撤去や新たな砂防ダムの建設を並行して進める計画を検討したところ、上流側の工事が下流側の工事の安全を脅かしかねない問題に直面した。

ここにダム技術室が培った技術が生きた。デジタルトランスフォーメーション(DX)を所管する部門とダム向けに開発したシステムを活用。個々の重機や作業員の位置、作業内容を技術者一人ひとりが携帯端末で確認できる仕組みを構築し、安全を確保した。

関西支店の高木宏彰統括所長は「近年では省人化や自動化を組み合わせたテーマが多い」と語る。これらの技術は個々の要素技術に分け、小規模に現場で導入していく。阿蘇で育てたインクライン技術は現在国内の高速道路工事で使うなど、険しい地形を伴う大規模工事での活用を想定している。

じっくり育てる災害対策技術に加えてもう1つの柱とするのが迅速な駆けつけの体制だ。大手ゼネコンは災害が発生すると、国土交通省の要請を受けた日本建設業連合会(東京・中央)の地方支部の調整のもと被災地へ出動する。現地で応急復旧に取り組むため、地元の建設会社や建機のレンタル会社、取引先などを確保する社員が必要となる。

大成建設は各支店から優先的に出動する社員を計30人そろえ、社員の繁閑に応じて毎月更新している。365日体制で全国から人員を迅速に派遣できるようにしている。1月の能登半島地震でもこの仕組みを生かして現地へ駆けつけた。

専門の技術者の育成には20年近くがかかる。相川社長は「技術を会社の『ストック』として継承して、他案件に展開していく」とし、災害時の復旧のノウハウを平時の工事で使うことで人繰りの問題と技術の深化を狙う「二刀流」作戦を説く。

「災害復興はゼネコンの使命」と話す大成建設の相川善郎社長

東日本大震災では被災した福島第1原発に最初に駆けつけるなど「災害時に現場にすぐに乗り込む企業文化はしみついている」(相川社長)という。

それでも不動産開発や海外進出をはじめ業容の拡大を進めるなか、技術者の人数を増やすのは難しい。24年4月からは残業時間の上限規制が始まったことで技術継承にかける時間にも制約が増える。ゲリラ豪雨など災害の激甚化も進むなか、非常時の対処内容も高度化している。

各社は突破口をDXに見いだす。大成建設は能登半島地震の被災地の現場でドローンを使い、高精度なレーザー測量を実施。被災現場の3次元モデルを構築し、復旧工事の設計を効率化した。限られる通信環境を補うために米スペースXの衛星通信サービス「スターリンク」も活用した。

大林組が大阪府枚方市の西日本ロボティクスセンターに配備する遠隔操縦装置を搭載したハイエース

大林組は作業員の安全を確保するために無人の重機を遠隔通信で操縦する「遠隔施工」を推進し、能登半島地震の被災地をはじめ20件超の実績を持つ。同社の大阪府枚方市の拠点には重機に後付けして遠隔操縦を可能にする機器を十数台分用意する。通信環境が悪い被災地でも遠隔施工できるように、商用車にディスプレーや操縦レバーを搭載した移動式の操縦席も待機させている。

鹿島も奈良県内の大規模土砂災害現場に遠隔施工とプログラムによる重機の自動運転を組み合わせた「自動施工」を導入した。同県五條市内で建設する砂防ダムの大型コンクリートブロックを一つずつ高い精度で積み上げる作業を自動化し、有人作業の負担を減らした。

大成建設の清水正巳土木技術部長は「技術室の情報検索に生成AI(人工知能)を役立てる」と意気込む。災害復興への貢献というゼネコンとしての使命と、限られた人材でどのように事業の効率性を高めていくか。その両立に向けた挑戦は続く。

(橋本剛志、藤本秀文)

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