電池向け塗工機で国内最大手のヒラノテクシードは、薄くて曲げることのできる次世代太陽電池「ペロブスカイト」専用の塗工機を開発し、2025年1月から受注を始める。電池基板となる樹脂フィルムに太陽光を吸収する層を高速で薄く均一に塗ることができる。塗工機を使うことで電池の生産効率が高まり、量産への道が開ける可能性がある。
25年1月に設備の詳細な仕様を発表する。同時に受注活動も始める予定。26年1月には東京都内で開催される展示会で実際の装置を公開する予定で、同年5月には初号機を納入する考えだ。19年に稼働開始した木津川工場(京都府木津川市)での生産を検討している。
ヒラノテクの塗工機は主にフィルムへの塗布と乾燥の2つの工程を担う。まずフィルム基板を円筒形のローラーに巻きながら、塗工ヘッドから溶液を出してペロブスカイト層を形成する。
同社が強みとする液晶用光学フィルムなどの薄膜コーティング技術をベースに、塗工ヘッドの形状や加工精度を高めて、より薄く塗布できるようにした。幅0.55メートルのフィルムを1分間で最長20メートル製造できる仕様を想定している。
次にもう一つのコア技術である乾燥制御によってペロブスカイト層を均一に結晶化させる。乾燥後の皮膜は約600ナノ(ナノは10億分の1)メートルまで薄くできたという。塗布部分をラミネート加工する機能なども追加できるようにする。
ペロブスカイト用では23年4月に社内に開発チームを立ち上げ、金沢大学の當摩(たいま)哲也教授と共同で塗工機の開発を進めていた。
同社が手がける従来の塗工機は、納入先の企業から提案を受けて開発するビジネスモデルを取っていた。ペロブスカイト用装置は「企画段階から自社発で手がけた」(大森克洋設計・開発部門長)。今後の電池の量産を視野に、新たな塗工機は自社の仕様をデファクトスタンダード(事実上の標準)として定着させたい考えだ。
ペロブスカイトは桐蔭横浜大学の宮坂力特任教授が発明した日本発の技術だ。従来の結晶シリコン型太陽電池に比べて重さが10分の1以下と軽いうえに加工性も高いため、自動車の外装や衣類など様々な用途への応用が期待される。
カナダの調査会社プレシデンス・リサーチによると、ペロブスカイト型太陽電池セルの市場規模は2032年に24億ドル(約3700億円)と、22年の26倍まで拡大する見通しだ。ガラス基板の量産が先行する見通しだが、中長期的には軽くて曲がりやすいフィルム基板が主流になるとみられる。
積水化学工業は25年、パナソニックホールディングス(HD)も26年度の実用化を目指す。積水化学は生産拠点としてシャープ堺工場(堺市)の一部取得も検討している。ヒラノテクは奈良県河合町の本社工場に実証設備を置くなどして塗工機を売り込む。
ヒラノテクはリチウムイオン電池や液晶の部材、電子部品など幅広い製品に表面皮膜を施す塗工機を手がける。30年度までの長期ビジョンでは連結売上高を23年度比で約3割増の600億円にする目標を掲げる。今後の成長に向けてペロブスカイト関連も新たな柱のひとつに育てる考えだ。
(高田哲生、柘植衛)
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