【トリノ=千葉大史】主要7カ国(G7)は30日の気候・エネルギー・環境相会合で共同声明をとりまとめ、閉幕した。排出削減対策をとらない石炭火力発電を段階的に廃止し、再生可能エネルギーの拡大に欠かせない蓄電容量を世界で2030年に22年比で6.5倍に増やすことで合意した。
石炭火力は化石燃料のなかでも二酸化炭素(CO2)など温暖化ガスの排出量が多い。今回のG7会合で共同声明に段階廃止を盛り込んだ。廃止時期については「30年代前半」もしくは「各国の温暖化ガス排出量を実質ゼロにする目標に向けた道筋に沿った時間軸」と2通りを示した。
蓄電池や水素といった電力部門のエネルギー貯蔵の容量を30年に22年の2.3億キロワットの6倍以上の15億キロワットに増やすと記した。太陽光や風力といった発電が安定しない再生エネと蓄電技術を合わせて脱炭素電源の安定供給につなげる。
自動車の分野では、ガスを排出しない電気自動車(EV)だけでなく、バイオ燃料といった環境に対応した持続可能な燃料を使った低排出ガスの自動車も運輸部門の脱炭素に貢献できると位置づけた。
次世代技術の核融合発電にも触れた。気候変動とエネルギー安全保障の課題の解決策になる可能性を訴えた。
今回大きな争点になったのは石炭火力の扱いだ。29日のG7の議論では欧州が35年の廃止年限を共同声明に明示するよう求めた。
日本に廃止の目標年限はなく、ドイツは38年の廃止を定めている。G7各国は議論の末、各国の脱炭素のペースに応じて35年以降についても一定の柔軟性を持たせる表現で決着した。
議長国のイタリアは25年までに石炭を廃止する方針をかかげており、G7として35年までの段階廃止で合意できた成果をアピールする構えだ。日独を除くG7の参加国はすでに35年までに廃止する方針を示している。
石炭依存高い日本、「排出ゼロ」描きにくく
石炭依存がなお高い日本にとって早期の廃止はエネルギー戦略を立案する上で困難なのが実情だ。日本は足元で発電量の3割を石炭でまかなう。現行計画では30年度時点でも2割程度を頼る想定で、35年までの廃止は難しい。
G7気候・エネルギー・環境相会合の合意内容について、日本政府関係者は「35年までに石炭利用をやめなければいけないという意味ではない」と説明する。
「30年代前半」の文言と併記した「各国の温暖化ガス排出量を実質ゼロにする目標に向けた道筋に沿った時間軸」の文脈について、日本の場合はその時期が35年以降になるとみられている。
35年以降も石炭の活用を想定するのは再生エネと蓄電池の導入拡大、原発の再稼働で増える電力の供給量が石炭火力を補える水準になるまで一定の期間を要するとの判断がある。生成AI(人工知能)の普及で電力需要が増える予測が出てきたことも一因となる。
合意した石炭火力の廃止対象は「排出削減対策をとらない石炭火力」としている。発電時に排出するCO2を回収して貯留することで排出を実質ゼロにする技術などを具体策に想定する。ただ、35年までに日本がどの程度活用できるかは見通せていない。
日本政府は5月の大型連休明けから電源構成の議論に着手し、40年度までを見すえた次期エネルギー基本計画を24年度中に策定する。電源構成の7割を占める化石燃料の脱炭素が欠かせない。石炭など火力発電の排出削減対策の技術導入に道筋をつけながら、電源構成の割合について議論する見通しだ。
脱炭素、先進国と中印が主導権争い
G7が再生エネの活用や化石燃料の削減に向けた目標を議論したのは、中国やインドとの脱炭素を巡る主導権争いへの意識もある。中印両国が現状で石炭火力に依存しながらも、再生エネを急速に導入して発言力を強めているためだ。
中国は23年に再生エネの設備容量が全体の5割を超え、初めて火力発電を上回った。太陽光の発電設備は24年3月末に前年比で55%、風力は同22%増えた。中国企業は太陽光パネルの世界シェアで8割を握り、風力発電の部品でも存在感を高める。
大気汚染や原油輸入による貿易赤字に直面するインドも再生エネの利用を推進し、再生エネの設備容量は全体の4割程度を占める。議長国を務めた23年の20カ国・地域首脳会議(G20サミット)の首脳宣言は再生エネの容量を30年までに3倍にする目標を盛り込み、3カ月後の第28回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP28)の合意内容を先導する形になった。
中印の動きを受け、日米欧は再生エネを巡る経済安全保障の強化に向けた対応策を急ぐ。ひとつが共通ルールの策定だ。日本と欧州連合(EU)は5月にも脱炭素分野の支援策や公共調達に関する共通ルールづくりで合意する。
EVなどで中国を念頭に、不当に安い製品を輸出する特定国への過度な依存を減らす。日米による同様の合意とあわせ、日米欧で信頼できる供給網を築く狙いがある。(北京=塩崎健太郎、ムンバイ=花田亮輔)
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