大林組などは24日、遠隔地に置いた建設機械を遠隔で操作する競技会を開いた。参加者は建設業界からほど遠いプロゲーマーや学生ら。建設会社のベテランと技術を競い、遠隔操作に適性を持つ人材を見極める。建設業界では男性優位な現場がいまだに多い。オフィスで建機を操る技術が普及すれば、小柄な女性や障害者、高齢者にも雇用の間口が拡大する。
ビジネスTODAY ビジネスに関するその日に起きた重要ニュースを、その日のうちに深掘りします。過去の記事や「フォロー」はこちら。東京・六本木に建つ超高層ビルの36階。オフィスの一角に設けた大型ディスプレーに映るバックホー(油圧ショベル)などを2人の男性が操作していた。彼らはeスポーツのプロチーム「Sengoku Gaming」に所属するゲーマー。動かしていたのは会場から40キロメートル以上離れた千葉市内に置かれた本物の建機だ。
建設業界の未経験者が建機を動かす
これは大林組や伊藤忠商事などが加盟する運輸デジタルビジネス協議会(東京・港、TDBC)が千葉県の技能者育成団体と開催した建機を遠隔操作する競技会の一場面。プロゲーマーや学生、建設会社のベテランら6チームが参加して作業の迅速性や正確性を競った。参加者には学生や女性も含まれた。
イベントに参加した丸磯建設(東京・品川)IT推進室の清水広道室長は、女性や学生の手さばきに熱視線を送り、「今後は彼らと現場作業で手を組むこともあるだろう」と期待を寄せる。プロゲーマーのYuhi氏は、建機を遠隔操作する「遠隔施工」の仕事について「報酬などの条件にもよるが、自宅で働けるなら選択肢の1つとしてアリ」と答える。
実はこの競技会、開催の狙いは「人手不足の緩和」にある。建設業界の未経験者が現場で活躍する技術の実証試験でもあるのだ。未経験者でも数日間の講習を受ければ建設現場での遠隔施工は可能だ。人材サービスのヒューマンリソシア(東京・新宿)によると、建設業では技能者が2030年に20年比で12%減の215万人となる。需要に対して31万人が不足する試算で、人手確保には常識を超えた取り組みが必要となる。
遠隔施工は30年以上の歴史がある。1990年に噴火した雲仙・普賢岳(長崎県)の被災現場で採用されたことが本格普及のきっかけとされる。2024年1月に発生した能登半島地震でも、大林組が通行路の整備に遠隔施工を導入した。
遠隔操作を可能にする装置は建機に後付けできる。大林組ロボティクス生産本部の藤堂大輔副部長は「通信環境にもよるが、1000キロメートル離れた現場の建機も十分動かせる」と説明する。有人作業と比べて作業スピードは低下するものの、「危険を伴う工事現場で安全を確保するコストを加味すれば遠隔施工を導入する利点は多い」(藤堂副部長)という。
「遠隔施工」で建設業の働き方改革も
遠隔施工は働き方改革にもつながる。例えば、長時間の振動にさらされるブルドーザーの整地作業は遠隔操作によって体に掛かる負荷から解放される。現場への移動時間も軽減可能だ。竹中工務店は移動式クレーンの操作者が事務所などに一堂に会し、熟練者の支援を受けながら作業できる体制を目指している。
国も制度で後押しする。国土交通省は24年度から平時に遠隔施工を活用するルールづくりに着手した。工事の定義や発注する手続きをまとめ、25年度以降に順次公表する。工種も実施例が多い砂防工事などから拡大する。
遠隔施工や建機の自動運転と組み合わせた「自動施工」の技術は、将来的に宇宙開発などで重要性がより高まる。鹿島は自動施工について、工事の計画立案から遠隔操縦、プログラムの改善まで手掛ける専門人材を「ITパイロット」と定義。グループで36人を育成しており、今後は協力会社にも広げる計画だ。
(橋本剛志)
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