セブン&アイ・ホールディングス(HD)は24日、投資家向けの事業説明会「IRデー」を開いた。井阪隆一社長は「世界30兆円」の目標を初めて公表し、自力で企業価値を引き上げる従来方針を改めて強調した。買収提案をしたカナダのアリマンタシォン・クシュタール(ACT)へ事実上の対抗策を示した形だが肝心の株価は低調なままだ。
「2030年度にグループ売上高を30兆円以上にする」。午前9時に始まったIRデーの冒頭、井阪社長は「世界最大のコンビニブランドの地位を確立したがグローバルで成長を続ける」と話して1枚のスライドを示した。30年度に世界で30の国・地域で展開し、店舗数を10万店まで増やすという従来計画に加え、グループ売上高の目標値を初めて公表した。
グループ売上高は、日米や他国で運営する店舗の売上高を足した数値を指す。一般的な売上高に当たる営業収益とは異なるものの、24年2月期のグループ売上高は17兆7899億円のため、30年度までに10兆円以上増やす計画だ。
「セブンと一緒になることで世界最大規模のコンビニを中心とする小売企業を目指す」と語ったACTのアレックス・ミラー社長兼最高経営責任者(CEO)らを意識した発言にも見える。
質疑応答では国内外の証券アナリストから、日米コンビニの先行きなどに対して厳しい意見が出た。足元のコンビニの業績不振に加え、経営陣が掲げた目標に対してこれまで未達となっていることが大きい。
30年度に売上高6兆円以上を掲げた国内コンビニ事業は、子育て世帯を中心に生活防衛意識が強まり来店客数が減少。既存店売上高は6月から4カ月連続で前年割れが続く。
セブン全体の売上高の約7割を占める海外コンビニ事業では、主力の米国で物価高の影響で中低所得者層を中心に客足が遠のいた。たばこ販売のほか、頼みとするガソリンスタンド併設店でのガソリン販売額も減っている。
井阪社長は24日、「世界で成長機会を的確に捉えており企業価値の更なる向上を見込める」と語り、コンビニ事業の回復へ意気込みを示した。短期的には国内では9月から低価格の食品など関連商品を270品目に拡充。三井住友カードのスマートフォンのタッチ決済を使った場合のポイント還元率を最大10%に高め、若い世代を中心に消費者の来店意欲を促す策などを始めた。
米国では26年2月期までに不採算の約440店舗を閉じる。半面、「エスプレッソ」などコーヒー飲料を含む店内調理の独自商品を新たに1900店に投入する計画だ。オーストラリアやマレーシアなどでも日本で培った鮮度の高い食品の品ぞろえを充実させる。
投資家の反応は現時点では鈍い。株価はACTの買収提案が明らかになった8月中旬以降、ACTが買収額を7兆円規模に引き上げるとの報道が出た際に、セブン&アイ株は一時2492円50銭と上場来高値を更新した。一方で、セブンが社名を「セブン-イレブン・コーポレーション(仮)」に変更し、コンビニ専業化を進めると発表した10日からは小動きが続く。
24日午前は一時前日比64円高の2265円50銭を付けた。もっともACTが再提案した1株18.19ドル(2800円弱)からは約2割安い水準にとどまる。
ACTのミラー社長や創業者のアラン・ブシャール会長は日本経済新聞の10月中旬の取材に答えた際、買収提案について「セブン&アイ全事業の統合に関心がある」と表明した。同意なき買収(敵対的買収)については現時点で想定していないことも明らかにした。
ACTのこうした考えについて、セブンは「特別委員会での議論を進めている」との回答にとどめ評価を避けている。「再提案への対応は検討中」といったステータスも変わっていないもようだ。
ACTは「これまでもM&A(合併・買収)の実績があり、当局との協議についても問題はない」とする米競争法上の論点について、セブンは「依然大きな課題と認識している」(幹部)としており両社の主張に隔たりが大きい。
セブンはグループ成長戦略の一環で10日、イトーヨーカ堂やグループの食品スーパー、ヨークベニマルをはじめ外食など非中核事業を分離する計画を発表した。井阪社長は「各事業がそれぞれの成長スピードや成長課題に合わせて事業シナリオを描き、自律的な財務規律をもって成長戦略にまい進することが可能だ」と改めて強調した。
自社努力で企業価値を引き上げ独自路線を維持したいセブン経営陣は、外圧が強まる現状の難局を乗り越えられるのか。井阪氏が直近語った「実績で示すしかない」という言葉が唯一の道しるべだ。
(原欣宏、岡本孔佑)
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