メルカリの越境取引が急激な成長を遂げている。2019年11月に開始した同事業の流通総額(GMV)は24年6月期で前期比約3.5倍に達し、国内フリマ事業のGMV成長率(9%)を大きく上回った。
これまでの越境取引の中心は、海外の利用者が「Buyee(バイイー)」といった越境EC(電子商取引)事業者のプラットフォームを通じて日本版メルカリに出品された商品を購入するという間接的なものだった。日本に住む出品者は、国内向けと同じ送料で、国内にある越境EC事業者の倉庫に商品を送るだけでよく、海外の購入者とのやり取りは不要だ。日本から海外までの送料については、購入者が負担する。
メルカリは現在、74社の越境EC事業者と連携しており、約120の国や地域(24年8月時点)で日本のメルカリに出品されている商品が購入可能になっている。
そうした中、24年8月、米国版メルカリの新機能として、日本版に出品された商品を検索し、直接購入できるようにした。機能の名称は「Mercari×Japan」。越境EC大手のBEENOS(ビーノス)が商品の点検や国際輸送に向けた準備を行い、出品者の発送日から2週間程度で米国の購入者の元に送られる。
従来も米国から日本版メルカリに出品された商品を購入することはできたが、前述したように、他社のプラットフォーム上での購入だった。米国版メルカリで日米双方の出品商品を購入できるようになれば、アプリの競争力が高まり、米イーベイなど中古品売買を仲介する米国の競合との差別化につながる。出品数が多いほど利用者が増え、利用者の増加に伴って出品数がさらに増える好循環が期待できる。
メルカリの米国事業は目下、苦戦が続いている。21年4〜6月期には四半期で初めて調整後営業損益(株式報酬と減価償却費を除く)で黒字を達成したものの、その後は赤字が続いている。8月13日に発表した24年6月期連結決算では、米国事業は赤字こそ縮小したものの、GMVが10%減少した。
マーケットの一部で米国からの撤退観測も出る中で、メルカリが米国事業再成長のための手段の一つと位置づけるのが越境取引だ。決算会見でメルカリの山田進太郎社長は、「越境取引事業自体が米国事業反転の一つのきっかけにもできるのではないかと思っている」と期待を込めた。
アニメ以外にも意外な商品が人気に
好調な越境取引だが、米国では日本のどのような商品が売れているのか。
米国に限らず海外のメルカリ利用者に好評なのは、「クールジャパン」と総称される、漫画・アニメに関連する「推し活」系のグッズだ。メルカリ執行役員で越境取引事業を担当する迫俊亮氏は「新型コロナウイルス禍の影響もあり、ここ数年で米ネットフリックスに代表される動画配信サービスを通じて日本のコンテンツが翻訳され、海外でも気軽に楽しめるようになった影響は大きい」と話す。
一方、米国では意外なブランド品が売れているという。高級ブランドとして知られる「コーチ」のバッグなどだ。周知の通りコーチは米国ブランド。なぜ、わざわざ日本で出品されるコーチを買うのだろうか。
迫氏は、「どうやら米国ではビンテージブームが起きており、古い年代のコーチが流行しているようだ」と明かす。コーチは00年代に日本でブームとなったが、使わなくなって購入者の自宅の押し入れなどに眠ったままのバッグは多い。そうしたものがメルカリに出品されるのだが、現在の米国で買えない品番のものも多く、日本の中古品の質の高さや、円安もあいまって米国で人気になっているようだ。
実際に米国版メルカリのサイトにアクセスしてみた。
商品検索は出品元(米国または日本)を選んで検索することができるようになっており、日本で出品されたコーチのバッグなどが売れていることが確認できる。日本語の商品説明に関しては、人工知能(AI)によって英語に翻訳されているが、商品画像は日本のものをそのまま流用しており、日本語の記載も見られる。
一方で、商品画像の中に「OLD COACH」という英語の文字を記載している商品もあった。画像の中の文字は日本の出品者が記載しているので、越境取引を通じて海外の人の目に留まりやすくする「販促上の工夫」と考えられる。
迫氏は「商品説明や画像に英語を入れる出品者は多い。例えば、アニメ『鬼滅の刃』のグッズで、あえて英語名『Demon Slayer』を記載していた出品者もいた」と話す。日本の出品者が越境取引を通じた売却も想定しているということは、越境取引の拡大がおおむね好意的に受け入れられていることを示唆する。
台湾でも日本版メルカリから直接購入
越境取引での新たな取り組みも始まっている。メルカリは8月29日の会見で、越境取引を通じた台湾進出を発表した。台湾の利用者は、新たに設けられた台湾版メルカリのサイトから日本版メルカリの商品を購入することができるようになった。他社のプラットフォームを通じてではなく、メルカリに会員登録して購入してもらうことで、利用者の声や情報をサービス改善に生かしていく狙いがある。
台湾には、日本のアニメグッズなどを求めて来日する人も多く、メルカリの越境取引における取引金額・取引件数はともに中国に次いで2位となっている。潜在的な需要が大きいとして進出を決めた。現時点では、台湾からの出品はできず、日本の商品を購入する機能のみのサービス展開となる。出品機能の拡充については、需要も見極めつつ検討していく。
今後も、日本の商品に対する需要が高い国・地域を中心に越境取引を広げていく方針だ。迫氏は「日本国内でモノを循環させるのではなく、越境取引で需要やトレンドが多様化すれば、より多くのモノが長く使われるようになる」と話す。コーチの中古バッグのように、日本では必ずしも需要が高くなくても、海外で思いのほか高値で売れた、という事例が増えれば、取引の活発化が見込める。
越境取引の拡大は世界的な潮流だ。経済産業省の調査によると、21年の越境ECの世界市場規模は推計7850億ドル(約110兆円)だったが、30年に7兆9380億ドルに拡大すると予測されている。その間の年平均成長率は推定約26.2%と高い。メルカリの米国事業のライバルとなる、イーベイの日本法人の担当者によると、23年はイーベイにおける日本から海外への販売額が2桁成長を記録したという。
メルカリは、24年9月10日に累計出品数が40億品を突破するなど豊富な商品在庫が強みだ。加えて、米国では対面取引にも対応するなど、イーベイとの差別化を図っている。越境取引の活発化を米国事業の反転につなげられるか。かつてない追い風が吹いていると言えそうだ。
(日経ビジネス 岡山幸誠)
[日経ビジネス電子版 2024年9月18日の記事を再構成]
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