初めてこの目で見たのは、2019年の年の瀬だった。ポーランドの首都ワルシャワのスーパーマーケットに、見慣れないカップ麺が何種類も並んでいた。パッケージには「OYAKATA(親方)」とある。
メーカー名は味の素。日本には存在しない「味の素のカップ麺」が、なぜかポーランドではスーパーの定番商品になっているのに衝撃を受けた。
その後、新型コロナウイルス禍が拡大し、海外に行けない日々が続いた。24年4月、英ロンドン支局に赴任し、欧州各地を回って実感したのは、味の素が即席麺ブランドとして着実に販路を広げているという現実だ。
カップ焼きそばが人気の欧州
7月中旬、パリ郊外で開かれた「Japan Expo(ジャパンエキスポ)」。日本好きのフランス人たちが20万人以上押し寄せたポップカルチャーの祭典で、OYAKATAブースに黒山の人だかりができていた。のぞき込むと、ルーレットを回して出た味が無料でもらえるイベントを開催している。大量に用意したOYAKATAが、猛スピードではけていった。
勢ぞろいしたOYAKATAを見ると、ラーメンだけでなく、焼きそばもある。むしろ、焼きそばのほうが売れ筋なのだという。特筆すべきは、そのラインアップの多彩さだ。
カップ麺に加え、袋麺も展開し、カップ焼きそばは「ジャパニーズクラシック」「ジャパニーズチキンてりやき」「ジャパニーズカレー」「ジャパニーズビーフわさび」「パッタイチキン」「コリアンバーベキュー」。カップラーメンは「味噌」「チキン」「しょうゆ」「豚骨」「ホット&スパイシー」「ビーフすき焼き」。袋焼きそばは「ジャパニーズクラシック」「ジャパニーズチキンてりやき」、袋ラーメンは「味噌」「チキン」「しょうゆ」という陣容である。
ポーランド味の素社によると、OYAKATAシリーズはポーランドの工場で生産し、輸出している。スープのもとや調味料など、味の素がこれまで培ってきた商品開発の知見を注ぎ込み、08年に発売。欧州連合(EU)や英国を中心に29カ国で販売している。都市部だけではない。筆者は、ギリシャの離島にあるローカルスーパーでOYAKATAに遭遇したことがある。
日本食に軸足をおきながら、アジアの味をカバーしているのは、欧州市場を開拓するため、EUの消費者の嗜好や市場動向を研究し、カスタマイズを重ねてきたからだ。
16年にはパッケージデザインを大きく刷新。白から黒に装いを変え、英語で親方を意味する「MASTER(マスター)」という名のキャラクターを前面にあしらった。スーパーの棚でも目立つ存在となり、ブランド化に弾みがついた。
フランスでは専用パッケージを投入
中でも「一番大きなマーケット」(ポーランド味の素社シニアブランドマネジャーのアンナ・カバツゥカ氏)だというフランスでは、専用パッケージを投入するほど力を注ぐ。既にカップ麺の市場シェアで16%(24年度3月時点、サカーナ調べ)を獲得。お膝元であるポーランドの9%(22年10月〜23年9月・即席麺市場全体、ニールセン調べ)を上回る勢いだ。EUを離脱した英国でも、今はアジア系スーパーでの取り扱いが中心だが、「メインストリームを目指してトライしている」(カバツゥカ氏)状況だという。
うま味調味料を世界に広げた味の素。その技術力と流通網を生かし、今後もEUを中心にブランディング活動を強化する計画だ。焼きそば、ラーメンそれぞれで新商品を投入することで商品群を拡大。プレミアムブランドとして独自のポジションを狙う。
合わせてカップのプラスチック削減を進める。調味料の小袋をリサイクル化できるようにし、蓋もノンカーボンにするなど、環境対応も一段と力を入れる予定だ。
欧州では、日清食品のカップ麺も広く流通しており、ジャパンエキスポの試食コーナーでも盛況だった。焼きそば「Soba」シリーズの他、カップラーメンの「チキン」「ビーフ」「ベジ味噌」「エビ」「スパイシー」など、こちらも様々な味を市場に投入している。
EU独自の規制や文化の多様性もあり、攻略が難しいとされる欧州市場だが、諦めずに挑み続ければ道は開ける。カップ麺を日常食に変えた現実は、日本企業のポテンシャルの高さを証明している。
(日経BPロンドン支局 酒井大輔)
[日経ビジネス電子版 2024年9月5日の記事を再構成]
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