様々な社会課題を克服し、持続可能な開発目標(SDGs)を達成するには、デジタル技術を最大限に活用することが欠かせない。その担い手となるIT(情報技術)ソリューション企業は、自社が得意とする技術を進化させるとともに創造力も求められる。既存事業の深掘りと新規事業の探索を両立する「両利きの経営」で未来を切り開きたい。
火災の早期発見やフードロス削減も
高所カメラで撮影した画像から人工知能(AI)が煙を検出し、火災発生の可能性を担当者にメールで通知する──。キヤノンマーケティングジャパン(MJ)グループが構築した東京都江戸川区の防災システムだ。高所カメラは自然災害などに備えて設置されるケースが多いが、常時監視することで火災の早期発見と迅速な対応につなげられる。
同グループが強みとする映像技術は用途が広い。物流の「2024年問題」対策も一例だ。カメラとAIでトラック運転手の荷待ち時間を可視化するシステムを大和ハウス工業と開発、11月から実証実験を始める。運転手の残業規制で輸送能力の低下が懸念されるなか、労働環境の改善と物流業務の効率化を目指している。
グループ企業が持つ数理技術を生かして、食品ロスの削減も後押しする。出荷実績や気象データなどをもとに需要を予測、最適な生産計画を立てるシステムを食品業界に提供している。
ITソリューションを手がける企業は個別の強みを持ち、社会課題の解決に貢献することが期待されている。ただ課題は多岐にわたり、自社技術を深掘りし応用範囲を広げるだけでは十分とは言えない。従来の延長線上の発想ではイノベーションも生まれにくい。外部の人材や技術資産を取り込み、離れた事業領域へ打って出ることが重要になる。
今年1月、キヤノンMJは新事業の創出に取り組む専門組織「R&B推進センター」を発足させた。産官学の連携やスタートアップとの協業を進める考えで、100億円規模のコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)も設立した。
最初に公表した投資案件がユニークだ。ホテルなど向けにトコジラミの捕獲サービスを提供するフィンランド企業に出資した。CVCは自社の事業と関連する分野に投資するのが一般的だが、同社は「ウェルビーイング」と「ビジネストランスフォーメーション」に結びつけば投資候補とし、あえて領域は定めない。新事業開発やスタートアップへの投資で経験が豊富な人材も異業種から招き入れている。
キヤノングループは企業DNAの一つに「進取の気性」を掲げる。「両利きの経営」をさらに進めるうえでも欠かせない精神だろう。(編集委員 半沢二喜)
キヤノンマーケティングジャパン・足立正親社長「失敗恐れぬ、挑戦する人材育てたい」
当社はハードウエア製品の販売からソリューション提供へと事業の柱を大きく変えてきました。顧客の課題の先には社会課題があります。労働力人口の減少や気候変動など、私たちは多くの難問を抱えています。今だけでなく将来の課題をしっかり見据え、持続可能な社会をつくりあげるために新たな価値を創造していかなければなりません。今年1月に「未来マーケティング企業」を宣言したのも、こうした思いからです。
キヤノングループの強みを生かして、様々な課題を解決していきます。例えば工場やオフィスの人の動きを映像技術と人工知能(AI)を組み合わせて解析すれば、生産性向上につながります。技術やノウハウの足りない分野では、他社との協業や産学連携にも積極的に取り組んでいきます。
社会課題を解決するにはICT(情報通信技術)に加え、人の力が重要になります。顧客企業などの現場に深く入り込み、仮説を組み立てることで提案力は磨かれます。5〜10年先からバックキャストして新事業を探索する力も必要です。社内で高度人材を育てるとともに、新領域を開拓するために知見を持った外部人材の登用も進めています。
課題解決とはワクワクすることではないでしょうか。今までの延長線上とは違う未来をつくるわけですから。私もそうですが、仕事をするうえで「愉(たの)しむ」ことが大切と思います。新入社員には「3、4年はどんどん失敗するように」と話しています。無防備ではケガをしますが多少の擦り傷なら成長につながります。新たなことに挑戦する人材が増えてほしいですね。世の中から期待される会社になりたいと思っています。
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