◆命を預かる仕事なのにみな疲れ果て…
休憩時間の確保などを求めて会見するANA元客室乗務員の多喜富美江さん(左から2人目)=東京・霞が関で
「客室乗務員は保安業務も使命。しかし在職中は、みんな疲れを引きずって働き、体を壊している人もいた」。全日本空輸(ANA)の客室乗務員だった多喜富美江さん(62)は9月、東京都内で記者会見をして訴えた。 多喜さんは定年退職を前に、過酷な労働環境の改善を求めて、加入する労働組合「ジャパンキャビンクルーユニオン」とともに団体交渉を続けてきた。1回の勤務で複数便の国内線や長時間の国際線に乗務。10時間近く働いても、10分程度の食事をとる時間以外はほとんど休憩がなかったと説明する。◆会社「地上ステイタイムは休憩時間」
労組によると、東京都労働委員会の審問で、会社側は、航空機が到着してドアを開いた時から出発のためドアを閉めるまでの時間(地上ステイタイム)は、上空での業務に比べて緊張度が低いため、休憩時間に当たるとの認識を示した。労組側は「乗客の案内や忘れ物のチェック、次の飛行機の準備でトイレに行く時間もない」と主張した。休憩時間の確保などを求めて会見するANA元客室乗務員の多喜富美江さん=東京・霞が関で
ANAの担当者は取材に「(休憩時間は)ステイタイム中やその他の時間もある。法にのっとった対応をしている」と説明する。 休憩時間を巡っては、ジェットスター・ジャパン(千葉県成田市)の客室乗務員35人が、法律で定められた休憩がない勤務を強いられているとして、会社側に休憩時間の付与などを求める訴訟を起こした。弁護団によると、客室乗務員の休憩時間の問題を争う初めての裁判とみられる。◆「法の網をくぐればいい」ではダメ
パイロットは航空法で乗客の安全を守る国家資格の航空従事者と位置付けられているのに対し、客室乗務員はサービス業従事者。法的な位置付けの違いが、休憩の少なさなどの問題の温床になっているとの見方もある。 航空業界の労働問題に詳しい明治大の黒田兼一名誉教授(労務管理)は「客室乗務員は航空法が適用されないため人数をぎりぎりまで減らされ、一人一人の負担も増えている」と話す。航空会社で客室乗務員が休憩時間を求めて争う現状について「客室乗務員は乗客の命を預かっている。休憩時間は、法の網の目をくぐればいいというものではない」と見直しの必要性を強調した。客室乗務員の休憩時間 一般の労働者は労働基準法34条で、労働時間が6時間を超える際は最低45分、8時間超の場合は最低1時間の休憩を取ることができる。ただ6時間を超える継続乗務に就く客室乗務員や電車の運転士などは、業務特性から休憩を与えないことができるとの規定がある。しかし東京労働局によると、例えば国内線の短時間乗務を複数便行い、その合計が6時間を超えるケースは、企業側に休憩時間を確保する義務が生じる。
◇◆折り返し時もほぼ立ちっぱなし
ジェットスター・ジャパンの現役客室乗務員の女性は「会社側はサービスを行わない時間を休憩時間と言うが、機長の命令下にあってシートベルトサインが点灯すれば乗客をチェックし、気分の悪いお客さまがいれば対応する。気持ちが休まる時間はない」と話す。 1日の勤務で国内線4便に搭乗、深夜往復でも折り返し時に休憩が取れないという。「食事も取れず、ほぼ立ちっぱなし。それでも会社はコスト優先で限界まで働かせる」と訴えた。◆「小泉政権の規制緩和」影響指摘も
日本航空(JAL)の現役客室乗務員の渡辺佳子さんによると、次便の出発までに必要な時間は最短35分という。乗客の降機時間、機内清掃やセキュリティーチェックなどで35分近くに達し「休憩はなく、座る時間もない」と説明する。 航空従事者に位置付けられていないことにも「海外では客室乗務員の資格は国家資格で、それがグローバルスタンダード。元警察官の人や男性も多い。日本の位置付けはおかしい」と訴える。「小泉政権の規制緩和で競争が激化した影響が大きかった」との見方を示し、「若い人が憧れて入っては、辞めていく」と現状を明かした。 鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。