精密精機・自動車分野でナンバーワンを目指す日本精工の市井明俊社長(写真=的野弘路)
 ベアリング(軸受け)で世界大手の日本精工。日本経済新聞社の2022年の「主要商品・サービスシェア調査」によると、世界3位のシェアを握り、首位のスウェーデンのSKF、2位の独シェフラーの背中を追う。強豪がひしめく中でどのように戦っていくのか。市井明俊社長・最高経営責任者(CEO)に今後の方針を聞いた。

――ライバルと比べて自社をどう評価していますか。

「(SKFもシェフラーも)欧州のメーカーで、欧州の産業発展を支えてきているというベースがあります。逆に、当社は日系企業がベースにあるので、日系企業の産業の形態や歴史によって強い分野や弱い分野が分かれます」

「例えば、風力発電分野は欧州が起点となって技術が広がっています。欧州勢が古くから手がけているので我々はチャレンジャーです。一方、工作機械やロボットはドイツも強いものの、日系企業が高度化の技術を培ってきているので、当社も比較すると強い分野になります」

市井明俊氏 日本精工社長・最高経営責任者(CEO)。1963年生まれ。86年早稲田大学商学部卒。86年日本精工入社、自動車事業本部やインド駐在を経て、2017年取締役執行役常務、19年取締役代表執行役専務、21年4月から現職(写真=的野弘路)

――ライバルを意識しますか。

「意識しますよ。特に製品技術の領域ですね。お客様にとってはQCD(品質・コスト・納期)が非常に重要な要件になりますので、いつも競合他社の立ち位置は見ています。当然勝ったり負けたりしますが、しっかりとキャッチアップしていきます。もちろん全方位というわけではありません。きっちり自分たちの目指すべきナンバーワンは何かを意識してこだわるということをやっていきます」

「精密精機や自動車の領域ではナンバーワンを目指したい。QCDの改善の連続が最終的にはシェアを決めると思います」

――ナンバーワンに向けて何に取り組みますか。

「自動車ですと、電気自動車(EV)化の流れの中でどうやってシェアを維持していくか、プラスにしていくかが問われています。ベアリングについては電気によって金属が傷む『電蝕』に対するソリューションのほか、バッテリーによって重量が重くなるので、それに対してどういう提案ができるのか。またEVは騒音や振動が減り、ベアリングにも静音性や制振性が求められます。こうしたものが大きな差別化の要因になるのでしっかりと我々の技術で提案していきます」

「電動化によるオポチュニティー(機会)も新しく出ているので、そこにアンテナを張って提案しています。今のところ我々が先行しているのは電動ブレーキ用のアクチュエーターです。ヒット商品を連発するのは難しいのですが、そういうものを1つ2つと積み上げていきます」

データ蓄積し、保全活動に

――生産現場のデジタル化も進めています。

「デジタルによって何を見える化、可視化するのか。それによって改善のサイクルを早められるかが重要です。デジタルやコンピューターに任せるというわけではなく、(現場、現物、現実を重視する)三現主義プラス、そこにデジタルを活用することで今までやっていたものづくりをレベルアップしていきます」

「全工場ができているわけではありませんが、生産設備については(故障などの)履歴データを蓄積していて保全活動に生かすことを始めています。『PM-Ai(ピーエムアイ)』という言い方をしていますが、各工場、各メンバー、各班が持っていたデータを集めて、それをどのように使っていくか考えていきます。現場の(改善活動の)発表内容にもデジタルを活用したものがだいぶ増えていて、うれしく感じています。現場が変わりつつあります」

デジタル技術を活用し、生産現場の改善活動に取り組んでおり、競争力を磨く(写真=日本精工提供)

――強みと課題をどう見ていますか。

「たくさんの業界につながっている部品なので、お客様とのつながり、接点が多いというのがあります。当然ながら、お客様は市場で起きる問題、解決しなければいけない課題を抱えています。そして我々は相談を受けてソリューションを提供していきます。自社というか、業界としての強みにもなりますが、こうして培ってきたノウハウや技術力は強みですね」

「ただそこに安住してはいけないという課題も感じています。ベアリングは自動車や工作機械というイメージが強いと思いますが、実は最終ユーザーで言えばもっと広いところにつながっています。建築現場であるかもしれなし、医療現場かもしれない。顧客領域や開発の目線を広げていくことが重要ですね」

――新商品開発などを「新領域商品開発センター」が担っています。

「全く関係ないことをやろうと言っているのではなく、我々の持っているトライボロジー(摩擦学)の技術によって領域を拡大していくということです。新製品もありますし、我々がこれまで気が付いていなかった領域に提案することもあります。最近ではロボットハンドや医療用ストレッチャーの搬送ロボット、EV向けのボールねじなどがあります」

日本精工は、ロボットハンドなどで新領域を開拓する

「当然、ライフサイクルがあって5年、10年で廃れてしまうものもあるので、それを生み続けられる状況にしていかなければなりません。まずは500億円の売上高を目指しますが、新製品や新領域によって売上高のうち10〜20%を常に生み出し続けること、これができれば他社にはない『勝ち技』になると思います」

(日経ビジネス 高城裕太)

[日経ビジネス電子版 2024年8月26日の記事を再構成]

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