円安が一段と進む中、日銀は追加利上げを見送った。超円安の要因は、米国でインフレが長く続いていることに加え、日銀の金融緩和がしばらく続くとの見方から、日米の金利差が縮まらないことだ。一方、日銀が円安の進行を阻止しようとして利上げを急いでも、住宅ローンのある家計や中小企業への負担は増加しかねない。日銀はジレンマを抱えている。

日銀の植田総裁(資料写真)

 日銀が政策維持を公表すると、為替レートは1ドル=156円を突破した。3カ月に1度公表する「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」が今後の政策運営について「当面、緩和的な金融環境が継続する」と述べたことで、追加利上げの観測が弱まったためだ。  会合後の記者会見で植田和男総裁は円安について「インフレ率への影響は通常は一時的にとどまる」と述べた。しかし、鈴木俊一財務相が「今はマイナス面の懸念を持っている」と発言するなど円安に対する不安は強まっている。

◆中小企業経営者「115~120円台がちょうどいい」

 都内の製造業の中小企業経営者は「115~120円台がちょうどいい。海外からの仕入れ価格が大幅に上がっており、その分の転嫁を取引先に認めてもらえるかが重要」と話す。東京商工リサーチの松永伸也情報部長は「為替の変動が大きいため、仕入れ価格の転嫁ができない輸入卸売業者もある」と話す。  家計への影響も懸念される。今年2月の実質賃金は前年同月比で1.8%減。電気・ガス料金の補助金が終わり、再エネ賦課金の負担も増える中、超円安は家計をさらに圧迫する。  しかし、利上げも容易ではない。展望リポートでは、「中小企業を中心に賃上げの価格転嫁は容易でないとの声も多く聞かれる」と2%の物価安定に向けたリスクに言及。住宅の高騰で可処分所得に占める住宅ローンの比率も高まっており、利上げをすれば返済負担が増える可能性がある。  一方、円安の背景には「連邦準備制度理事会(FRB)が利下げできないくらい米国景気が強い」(SMBC日興証券の牧野潤一氏)ことがある。仮に日銀が利上げをしてもドル高円安の基調は変わらないとの見方もある。(白山泉) 

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