日経ビジネスが実施した「IR発信力調査」。企業姿勢を的確に伝えられているかを聞き、1万1000人の個人投資家から回答があった。
大規模調査で1位に輝いたのはトヨタ自動車だ。財務と非財務の合計である総合スコアが4239点となり、他社を圧倒した。
2024年3月期連結の営業利益は日本企業初の5兆円を超え、最近5年で株価は約3倍になった。ただ本調査で評価が高いのは、財務だけではない。5項目の非財務スコアの合計が3977点と、最高得点をたたき出した。
非財務の内訳は、従業員のスキル向上などの「人的資本」、社会貢献などの「社会・関係資本」、環境問題対策などの「自然資本」、特許などの「製造・知的資本」、「情報発信の工夫」だ。一連の認証不正が発覚する前の調査ではあるが、すべての項目で1位を獲得した。
トヨタは「直接対話をするメディア・投資家だけでなく、その背後にいる多くのステークホルダー(利害関係者)の共感を得られるような情報発信を常に意識している」と話す。事業所内託児所の開設など仕事と家庭の両立支援制度の拡充に加え、社内公募の本格導入など人的資本への積極的な取り組みも評価された。
今回の調査では、非財務への評価が高い企業が上位に名を連ねた。総合2位のソニーグループは、事業と人材の多様性を重視する姿勢が支持され、人的資本の項目でも2位を獲得。総合3位のダイキン工業は、社会・関係資本スコアが2位となった。
個人投資家の裾野拡大
今回、この調査を実施したのは、企業にとって個人投資家の存在感が高まっているからだ。14年から始まった少額投資非課税制度(NISA)を追い風に個人株主は増加を続けている。東京証券取引所によると、23年度の国内4証券取引所の個人株主数(延べ人数)は前年度比6.6%増の7445万人と10年連続で増えた。
24年には非課税上限額が拡大した新NISAが開始。さらに東証は24年7月、個人株主の裾野拡大を狙い、売買の最低単位を現在の100株から減らす方策を議論する勉強会の立ち上げを発表。より少額で株を取引しやすくする方針だ。
企業価値をシビアに分析する機関投資家とは異なり、個人が投資する理由はさまざま。企業にとっては行動がつかみづらい存在でもある。今回の調査では個人がどのような非財務情報を求めているかも重点的に探った。
ニッセイ基礎研究所の井出真吾・主席研究員は、「"逆張り"を狙う個人と、機関投資家は投資行動がほぼ逆。株価の安定化を図るには個人投資家の存在が欠かせない」と指摘する。
21位の味の素から、47位の日本たばこ産業(JT)が総合スコアで2000点台を獲得。50位以内は「2000点」が一つの目安となる。
総合上位企業は、財務スコアが400点台と比較的低くても非財務スコアで高い点を獲得して浮上するケースも多い。アサヒグループホールディングス(23 位)、ソフトバンクグループ(25位)、楽天グループ(32位)などだ。
楽天グループは、モバイル事業の苦戦で財務スコアは411点と低い。だが「モバイル事業は逆風だが、楽天市場などでの事業拡大をアピールできている」「トップのメッセージが伝わる」という意見があり、一定の評価を得ている。
一方、財務スコアが高いものの非財務スコアが相対的に低くなり、総合順位が伸び悩んだのが商社だ。三井物産は、財務スコアが全体の15位だったが、総合で31位。伊藤忠商事も財務スコアが18位だったが、総合37位となった。個人株主がIR発信力で評価するのは財務だけではないことが分かる。
注:記事中の株価などの株式指標は、2024年7月末時点
(日経ビジネス 小原擁)
[日経ビジネス電子版 2024年8月19日の記事を再構成]
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