(写真=スカイマーク提供)

全日本空輸(ANA)と日本航空(JAL)の2強が幅を利かせる国内航空業界で3位といえばスカイマークだ。国土交通省によると、2023年度の国内輸送人員は約794万8000人で3番手。定期便による輸送人員の7%超を占める。

「我々は中庸のポジションと位置づけられることが多い。このポジショニングが非常に重要だ」。洞駿会長から24年6月に経営のバトンを受け取ったばかりの本橋学社長はこう強調する。

航空業界はANA・JALのように運賃が高めで無料の受託手荷物サービスやマイレージサービスなどを提供するフルサービスキャリア(FSC)と、ピーチ・アビエーションのように運賃が安めでサービスを絞る格安航空会社(LCC)に分かれる。スカイマークはこの中間、身近な価格でちょうどよいサービスの提供に活路を見いだす。

「規模は追求しない」

ただ単なる拡大路線は選択しない。かつてスカイマークは大型機材を導入した上で国際線に参入する計画をぶち上げたものの、巨額投資などが重荷となって15年に経営破綻したという苦い経験がある。本橋社長は「上位企業と比べて売上高も利益も、機材数もざっくり20分の1の規模。規模を追求するのではなく、我々なりの得意領域や勝てる領域を少しずつ増やしていく」と打ち出す。

スカイマークの本橋学社長は2024年6月に就任したばかりだ(写真=吉成大輔)

まずは自社の就航便数が多い羽田、神戸、福岡の各空港を中心とした増便だ。羽田については混雑空港として発着枠の上限が定められており、再分配される29年夏まで増便は難しい。ただ再分配の対象外となる早朝や深夜の時間帯、公用機枠の空き枠などを積極的に狙う。

機材の刷新もスカイマーク流だ。スカイマークは「ボーイング737-800」を29機使っているが、25年度から燃費効率の高い「737-8」と、座席数も多い「737-10」を順次導入する。737型を継続的に利用することで操縦士の育成コストや整備コストを抑え、収益性を高める。

運休中の国際線についても25年度以降の再開を検討する。スカイマークは19年、初の国際定期便として成田-サイパン線を就航したが、新型コロナウイルス禍の影響によって現在まで運休が続く。導入する新機材の利用効率を上げるという観点からサイパンだけでなく、中国や韓国、台湾といった国・地域への路線を検討。本橋社長は「競争が厳しい世界なので勝算をしっかり見極める」とした。

労組と「腹を割って話した」

勝てる領域を増やすためには人材育成も必要だ。

23年3月に新設された労働組合とは一時対立を深めることもあったが、「腹を割って話した結果、一定程度の関係性を築けている」(本橋社長)。その上で独自性やユニークさ、唯一無二性を重視して、新たなビジネスに挑戦していける人材育成に取り組む。

本橋社長は「社員に対して自分の考えをこまめに直接伝え、今後1年かけて人事制度や評価のあり方なども見直していきたい」と話す。

上の図で示した企業の競争地位の4類型において、スカイマークは上位企業とすみ分け、独自の強みを磨く「ニッチャー」の典型だ。経営資源に劣る中小企業が取る「弱者の戦略」と相通ずる。

シェアや収益力で「リーダー」を脅かす「チャレンジャー」を目指すのも、業界3位が取るべき戦略だ。一方、国内市場が縮小する中で、競合を模倣する「フォロワー」にとどまるリスクは大きい。フォロワーから脱却できるかどうかが、業界3位が生き残る大きなポイントとなる。

(日経ビジネス 高城裕太、梅国典)

[日経ビジネス電子版 2024年8月7日の記事を再構成]

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