西武ホールディングス(HD)は24日、大型商業施設「エミテラス所沢」(埼玉県所沢市)を開業した。不動産に価値を上乗せして売却する「回転型ビジネス」への参入を明言してから最初の大型案件となる。同社は不動産事業を成長戦略の核に位置付ける。だが当面は具体的な開発案件が見当たらず、成長のけん引役となるかは未知数だ。
「不動産事業を核とする成長戦略を2024年からスタートさせ大きく舵(かじ)を切った。エミテラス所沢の開業は試金石、スタートラインだ」。西武HDの後藤高志会長はエミテラス所沢のオープニングセレモニーでこう述べた。
エミテラス所沢は地上7階建て延べ床面積約12万9000平方㍍の商業施設だ。西武鉄道の車両工場跡地、約3万4000平方㍍に建てられた。飲食や小売りなど142店舗が出店している。事業費は約295億円で西武HDの不動産事業を担う西武リアルティソリューションズと住友商事が事業主となる。
西武HDにとって、エミテラス所沢の開業は「所沢開発の仕上げ」(事業担当者)だ。18年から西武鉄道の所沢駅に直結するグランエミオ所沢などを相次いで開発し、乗り継ぐための駅から集客力のある駅へと進化させてきた。
不動産事業を「回転型ビジネス」へ
西武HDはグループの長期戦略として不動産事業を成長の中核と位置づけた。不動産を保有して安定した賃料収入を得る従来のビジネスモデルに加え、保有不動産に付加価値を乗せて売却し、流動化で得た資金を新たな開発に充てる回転型ビジネスにも軸足を置くとした。35年度までに営業利益1000億円以上(23年度比約2.1倍)の経営目標を掲げる。
流動化の対象として24年中に「東京ガーデンテラス紀尾井町」の売買契約の締結を目指している。売却額は4000億円規模になるとみられる。また本社が入るダイヤゲート池袋なども25年度にも流動化するべく具体的な検討に着手するとしている。
エミテラス所沢も流動化の対象だ。ただ今後の売却にむけた具体的な計画について後藤会長は「今のところは何とも言えない。少なくとも価値を高めていき、その先に流動化、キャピタルリサイクルという発想がある。まずは価値を高めて、いろいろな方に喜んでいただくというところからスタートしていく」と明言は避けた。
同社の不動産事業は次の一手が見当たらない。長期戦略では24〜35年度に約1兆8000億円の設備投資枠を設けている。高輪や芝公園などの都心再開発に約6000億円、リゾート開発に約700億円などを充てる計画だが、具体案は示されていない。
JPモルガン証券の姫野良太シニアアナリストは「経営が守りから攻めに転換した点は評価できる」としつつも「まだ実績が見えず未知数な部分が多い」と指摘する。
後藤会長はエミテラス所沢について、「所沢市の都市計画決定ができたのは14年。不動産事業の開発は非常に長い年月がかかることを肌感覚で認識した」と話す。西武HDの不動産回転型ビジネスが軌道に乗り出すにはまだ時間がかかりそうだ。
(鷲田智憲)
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