米IT大手アマゾン・コムが、来年1月から全世界でリモートワークを廃止すると発表した方針が、世界をざわつかせている。コロナ禍をきっかけに日本でもリモートワークが進んできた。従業員に週5日の出勤を求めるという巨大IT企業の動向は、日本の働き方にどう影響するのか。(中川紘希)

◆「有名企業が廃止に動くと影響されるのでは」

 「私たちは新型コロナ拡大前のように、オフィスに戻ることを決めた。社員の学習や連携、企業文化の強化などを容易にするためだ」。アンディ・ジャシー最高経営責任者(CEO)が、今月16日に公表した従業員向けのメッセージでそう伝えた。

アマゾンジャパンのオフィスがあるビル=東京都目黒区で

 このニュースに子育て中の東京都豊島区の銀行員女性(30)は「有名企業がリモートワーク廃止に動くと社会全体が影響されるのでは」と心配する。「通勤と準備の手間が省けて楽だった。在宅勤務用にパソコンと机も新調したのに。会社がリモートワークを認めない方向に態度を変えないか不安だ」と話した。

◆コロナ禍で27%が経験との調査も

 リモートワークはコロナ禍で急速に発達した。国土交通省のサンプル調査によると、リモートワークをしたことがある会社員や団体職員などの割合は2019年度の14.8%から、コロナ禍の2020年度が23.0%、2021年度が27%と急増。だが、2023年度は24.8%と減少気味だ。  リモートワークの普及啓発に取り組む一般社団法人日本テレワーク協会(東京)の村田瑞枝事務局長は「コロナが収束し、オフィス回帰に動く企業と、テレワークを進める企業と、二極化している」と話す。

◆特例と考えるベテラン、若手は出社に抵抗感

 コロナによる急速なリモートワークの導入で世代間で認識のずれも生まれたという。ベテラン社員は、リモートワークはコロナ禍の特例と考えるが、コロナの影響で学生時代にオンライン授業も受けた若手社員らは、理由がない出社に抵抗感があるという。村田事務局長は「社員を出社させるには、理由が必要な時代になった」とみる。  海外では「コーヒーバッジング」という言葉もある。社員が出社記録を残してコーヒーだけを飲んで帰宅する働き方を意味する新しい言葉で、コロナ収束後の働き方は世界的な論争になっている。

◆東京一極集中の是正も期待されたが…

 リモートワークには、東京一極集中の是正効果も期待された。総務省の人口移動報告によると、東京都への転入者が転出者を上回る「転入超過」は、コロナ禍の2020、21年は前年比で減少している。22、23年は増加した。

コロナ禍でリモートワークが一気に普及すると思われたが(写真はイメージ)

 一方、栃木県の移住促進の担当者は「移住の相談と支援金の件数は年々増えている」と話す。「オフィス回帰の動きが今後進むかは不透明。市町と連携しリモートワーク支援と東京への通勤代の補助の両面の支援を展開するしかない」と話した。

◆それでもリモートワークは増えていく?

 アマゾンの影響は広がるのか。村田事務局長は「流通のため現場作業が必要な企業。リモートワーク廃止は驚かない」とし、デジタル化が進む業種では、多様な働き方の一つとしてリモートワーク導入も増えていくと予測した。  第一生命経済研究所の熊野英生首席エコノミストも「アマゾンはリモートワークの効率性に懐疑的な企業だった」と説明。日本では、IT企業を中心に地方の企業や個人などに業務の一部を任せる動きも進んでいるという。「完全な移住まで増えるか分からないが、賃金の高い都市部で数日間働いて、残りは地方でリモートワークをする2拠点生活はこれからも増えていくのでは」とし、日本への影響は限定的とみる。 

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