月面輸送サービスのispace(アイスペース)は12日、同社で2回目となる月着陸船の打ち上げを最速で12月に実施すると発表した。2023年4月に民間で世界初の月面着陸を目指したが目前で失敗した。飛行ルートなどを工夫して再挑戦する。中国やインドなどを含む月面ビジネスの競争が激しくなる中、日米主導での経済圏づくりを進められるかの試金石となる。
ビジネスTODAY ビジネスに関するその日に起きた重要ニュースを、その日のうちに深掘りします。過去の記事や「フォロー」はこちら。「特定された課題と真摯に向き合い、改善に努力を惜しまず、きょうまで歩みを止めずに進んできた」。アイスペースの袴田武史・最高経営責任者(CEO)は茨城県つくば市で開いた事業説明会で再挑戦への意気込みをこう語った。
月着陸船は米スペースXのロケットに積んで打ち上げられる。実際の着陸作業はその4〜5カ月後になるといい、最速で来春の見通し。米新興のインテュイティブ・マシンズが24年2月に着陸に成功したため、「民間で世界初」の称号は惜しくも逃す形だが、それに次ぐ達成を目指す。
アイスペースは月に顧客の物資を輸送するサービスの実用化を目指している。今回は高砂熱学工業の水電解装置やユーグレナの藻類栽培装置、台湾の国立中央大学の放射線量計などを運ぶ。
月面探査車を使ってレゴリス(月の砂)を採取し、その所有権を米航空宇宙局(NASA)に販売する契約も結んだ。成功すれば、世界初の月資源の商取引となる。
袴田CEOは着陸に成功すれば「月の資源の活用をどう実現していくかという議論を進めるための第一歩になる」とも語った。
説明会では着陸予定地点も発表した。月の北部に位置する「氷の海」と呼ばれる場所の中央付近を目指す。月面にはクレーターや凹凸があるが、前回に比べて着陸予定地点の周辺から広範囲にわたって障害物の少ない平たんな場所を選んだ。
前回の挑戦では着陸直前に燃料が尽きて落下した。降下中に、急激な地形の高低差によって高度認識に狂いが生じた。この教訓を生かし、今回はソフトウエアなどに修正を加えたほか、高度の誤認が生じにくい飛行ルートを通るよう事前検証を重ねた。
月では水や鉱物などの資源が利用できる可能性があり、近年は国家や民間の探査が相次いでいる。19年には中国が世界で初めて月の裏側に、23年にはインドが月の南極付近に探査機をそれぞれ着陸させた。
今後は資源探査機器などの輸送需要も生まれる見通しだ。コンサルティング大手のPwCによると2020〜40年の月面ビジネスの市場は累計で1700億ドル(約24兆円)になる見込み。このうち輸送サービスは約6割の1000億ドル程度を占めるという。
こうした輸送技術を持つのは民間では現時点で世界で数社とされ、アイスペースには大きな商機だ。着陸船や探査車には日本航空(JAL)の溶接技術やスズキの小型化・軽量化のノウハウなどを活用している。
アイスペースの着陸成功には米国も期待をかける。月面経済圏づくりで中印などに対抗すべく、現在推進する「アルテミス計画」では日本や欧州、カナダと連携している。特に日本は重要なパートナーで、アイスペースも同計画を担う主要企業と位置付ける。今回のプロジェクトもNASAが顧客となり、間接的に協力している。
アイスペースは投資先行で業績はまだ赤字だ。ただ、7月には三井住友銀行など計7行からシンジケートローン(協調融資)で100億円を調達するなど市場の評価は高まっている。
月面着陸が成功すれば、日本の宇宙スタートアップの実力を世界に示すきっかけにもなる。リベンジ達成なるか。注目の挑戦が迫る。
(小田浩靖、川原聡史)
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