松坂屋名古屋店のファッションフロアは、約6割の店舗を入れ替える(イメージ図)

松坂屋名古屋店(名古屋市)は11日、着工中の大規模改装の詳細を発表した。2024年秋から25年秋にかけて、のべ8フロアを改装しリニューアルオープンする。投資額はグループとして過去最大級の約63億円で、若年富裕層に人気の高いアートや酒などの商品を充実させる。並行して外商営業の体制も強化する。外商が売上高の半分を占める同店で、顧客の「代替わり」に対応する。

フロア総面積の3割以上の約2万7000平方メートルを改装する。11〜12月にかけて、北館の地下1階と本館の3〜4階、8階すべてと5階の一部を開業する。25年秋までには改装がすべて終わり、全フロアがオープンする見通しだ。

目玉の一つが8階だ。百貨店としては全国で初めて絵画などのアートのための専用フロアとなる。若者が入りやすいようにカフェも併設する。8階はこれまで美術・呉服を取り扱うフロアで高齢の顧客が多かったとみられる。大幅刷新を通して顧客の若返りを図る。

北館の地下1階にある酒類売り場やレストランは面積を従来の2.9倍に広げる。若い富裕層の間で高級日本酒などの人気が高まっていることに対応する。

婦人服が中心の本館の3〜4階では、約6割のブランドを刷新する。これまでは50〜60代向けのブランドが中心だった。今回の改装では、20〜40代向けの上質な洋服ブランドを充実させる。大丸松坂屋百貨店の宗森耕二社長は「コンテンツの充実と居心地の良さで何度でも訪れたくなる百貨店を目指す」と意気込んだ。

改装の背景にあるのは、顧客の代替わりだ。松坂屋名古屋店の主要顧客は外商だ。松坂屋名古屋店は外商顧客が年間売上高の約5割を占める。親会社のJ・フロントリテイリング(JFR)傘下の首都圏や関西の他百貨店では全体の1〜3割にとどまる。

松坂屋名古屋店の外商顧客には、弁護士や医者のほか中部の中小企業経営者が多いとの見方がある。オーナー経営者が高齢化し子どもが後を継ぐ動きが広がるなか、店舗を若年層が好むつくりに改装し顧客をつなぎ留める必要が生じている。

顧客の代替わりに合わせ、外商の営業方針も変える。外商には主に、外商員が顧客の自宅で商談する方法と、外商員が店舗で接待する方法の2つがある。担当者によると、これまでは外商員が家に来ることがステータスだった。

若年層は店舗に来店し自身のこだわりで選ぶのを好むという。このため、松坂屋名古屋店は店頭での外商利用を見据えた営業方針にシフトする。インテリアに注力した改装は若い富裕層の来店を促進させる。嗜好品などを充実させ愛好家などに訴求する狙いがある。

9月からは外商にかかわる従業員を1割増やし、事業を再編するなど外商営業の体制も強化した。食品などカテゴリー別だった組織体制を店舗担当などの機能別に再編した。これにより、商品の部門を超えたイベントなどの企画を検討する。

改装を機に、若年層を呼び込みやすいように栄地区の他店舗との回遊も強化する。同地区にはJ・フロントリテイリング傘下の店舗や開発計画が集約している。若者向けの「パルコ」は12月に改装が終わり、「ザ・ランドマーク名古屋栄」は26年夏に完成する。今後は店舗を超えたイベントなどを検討するという。

中京大学の内田俊宏客員教授は「若い世代は電子商取引(EC)に慣れており、外商という購買形態を親からそのまま引き継ぐかは不透明だ」と指摘する。大規模改装の成否は、松坂屋名古屋店のみならず栄地区の活性化の成否にも直結する。

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