記者の質問に答える(右から)近鉄GHDの小林現会長、次期社長の若井氏、次期会長の都司社長(25日、大阪市天王寺区)

近鉄グループホールディングス(GHD)は25日、若井敬・取締役専務執行役員(64)が6月に社長に昇格する人事を発表した。都司尚社長は代表権のある会長に就く。グループ会社の不祥事を受け、異例の2年連続のトップ交代となる。17年間グループを率いた小林哲也会長は取締役相談役になる。新経営陣にとっては鉄道以外で稼ぐ力の向上が急務となる。

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同日の記者会見で小林氏は若井氏について「グループ各社の経営状況や課題を熟知し、今後のかじ取りに適任と判断した」と語った。若井氏は会計や経理の経験が長く、経営戦略も所管する。米ブラックストーン・グループへのホテル売却や、物流事業の近鉄エクスプレスの完全子会社化に携わった。「金利や為替など金融環境が大きく変動する中、人心一新を図った」(小林氏)という。

近鉄GHDのトップ人事は曲折を経た。23年、グループ会社の近畿日本ツーリストで新型コロナウイルスのワクチン接種受付業務を巡る人件費を自治体に過大請求していた不祥事が発覚。近ツー親会社のKNT-CTホールディングス(HD)社長の米田昭正氏が近鉄GHD社長に就くとしていた人事を取り消した。近畿日本鉄道社長だった都司氏が23年6月に近鉄GHDの社長に就任した。

米国現地法人社長を務め海外経験が豊富な米田氏は、小林氏がグループのかじ取りを託す「本命」だったが頓挫した格好だ。近ツーは青森市が発注したコロナ患者輸送業務でも談合疑惑が明るみに出ている。米田氏は6月、近鉄GHDの取締役を退任し、KNT-CTHDの社長職に専念する。「米田氏からKNT-CTHDで責任をもって改革にあたりたいと申し出があった」(小林氏)

2年連続のトップ交代の背景を問われた小林氏は「一向に差し支えない。グループ内に精通して見識のある人材であれば問題はない」とした。東洋証券の安田秀樹シニアアナリストも「都司氏は緊急登板の要素も強く、近々のトップ交代は市場もある程度織り込んでいた」とみる。

近鉄GHDは大阪から名古屋まで私鉄最長となる約500キロメートルの鉄道路線を持つ一方、鉄道以外の稼ぐ力が弱い。コロナ禍でホテル・レジャー事業が打撃を受けたこともあり、若井氏は「消費者向けが中心の事業構造の弱さが露呈した」として改革を急ぐ。海外を含めた物流や不動産事業に注力する。

07年に近鉄社長に就いた小林氏は持ち株会社制への移行や観光特急「しまかぜ」の投入など経営改革をけん引してきた。近鉄バファローズ球団の統合前最後の社長も務めたグループの象徴的存在だ。小林氏の会長退任で経営は大きな転換点を迎える。

(田村修吾)

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