(写真=レゴ提供)

「マスバランス方式は、より多くの再生可能原料やリサイクル原料を使用していく一助になる」。デンマークの玩具大手レゴのウェブサイトでは、マスバランス方式と呼ばれる素材の認証制度について詳細に説明している。2023年、同社が調達した樹脂の18%が同制度の認証を受けた素材で、それを製品に換算した際の再生可能原料の平均使用率は12%になると推定している。「24年以降、この比率を大幅に上昇させる計画だ」(同社)という。

マスバランス方式とは、バイオマス原料やリサイクル原料などの使用分を任意に特定の製品に割り当てる仕組みだ。

例えば、あるプラスチック製品をつくるのに石油由来の原料を3トン、バイオマス由来の原料を1トン使用したとする。実際の配合を考えると「25%バイオマス由来」のプラスチック製品が4トン分生産される計算になる。

ここでマスバランスの考え方を採用すると、製品ごとにバイオマス原料の使用量を柔軟に割り当てることができる。例えば「バイオマス100%」の製品を1トン、0%の製品を3トン製造したとみなすことで、100%バイオマス由来のプラスチック使用にこだわる顧客の要求に応えられるようになる。バイオマス原料が50%の製品を2トン、0%の製品を2トン、などと割り当てることもできる。

プラスチックのマスバランス方式については、ドイツの機関が運営する「ISCC PLUS」など複数の国際的な認証制度がある。化成品以外にも鉄鋼や製紙、パーム油などの品目で同様の考え方が採用されている。

大規模な設備投資が不要な「移行期の現実解」

この方式の利点は、石油由来の原料を処理する既存設備の使用を継続しながらでも「100%脱炭素原料」などと見なされた製品を供給できる点にある。バイオマス原料やリサイクル原料しか使わない製品の製造にこだわれば、大規模な設備投資やサプライチェーン(供給網)の全面的な再構築を進める必要がある。だがマスバランス方式は石油由来の原料と、脱炭素原料を混ぜ合わせるだけで済むので手軽に導入できる。将来的には石油由来の原料からの脱却は避けられないとしても、脱炭素への移行期における「現実解」として注目されている。

こうしたメリットを踏まえ、マスバランス方式の国際認証を受けた素材の使用は広がってきている。英日用品大手ユニリーバなどがプラスチック容器を取り入れたほか、国内では日本生活協同組合連合会が、三井化学のグループ会社が製造するマスバランス認証を受けた食品包装材を導入している。三井化学グリーンケミカル事業推進室の松永有理ビジネス・ディベロップメントグループリーダーは「歯磨き粉の容器や食器、玩具など、色々なところで使われ出している。だいぶマスバランス方式を理解してもらえるようになってきた」と話す。

日本生活協同組合連合会は食品包装にマスバランス方式の認証を受けた製品を使用している(写真=三井化学提供)

とはいえ、マスバランス方式の普及に向けた課題は多い。1つは、実際の取り組みよりも誇大に環境への配慮を主張する「グリーンウオッシュ」(見せかけの環境対応)という批判を受けやすい点だ。

同方式では実際の製品におけるバイオマス原料などの配合率と、マスバランス方式で割り当てた比率が異なることになる。製品に割り当てた比率と同等のバイオマス原料が含まれている、との誤解を招く表示は誇大広告と見なされる恐れがある。

環境省が23年2〜3月に開催した「マスバランス方式に関する研究会」のとりまとめでは「割り当てたバイオマス成分が実際に製品中に含まれると消費者などが誤解してしまうような表現・表示を用いることは避けるべきだ」としている。

さらに大きな課題もある。実はマスバランスという手法自体が、グリーンウオッシュの温床になってしまうリスクを内在している。

バイオマス比率水増しのリスク

ある製品Aについて、バイオマス原料の比率を実際の配合分よりも高いと見なした場合を想定する。このとき、実際にはバイオマス原料を含む製品Bは、製品Aにその配合分を奪われることになる。実際には原料の25%はバイオマス由来だが、マスバランス方式によって0%と見なされる製品も出てくる。

ただ、プラスチックにどれほどのバイオマス原料が含まれているのかは、放射性炭素という炭素の一種を使うことで測定できる。この測定結果を根拠に、マスバランス方式では完全に「石油由来」と見なされた製品を、実際の配合に沿って「25%バイオマス由来」として販売しても、判別できない恐れがある。このような不正行為が横行すれば、マスバランスの割り当て分だけ、バイオマス原料の使用分が水増しされてしまうことになる。

マスバランス方式の認証団体は、バイオマス原料を割り当てられなかった製品についてはその使用を主張しないという誓約を求めている。ただ三菱UFJリサーチ&コンサルティングの植田洋行主任研究員は「認証はあくまで民間ビジネスであり、現行の主な認証団体のルールでは、バイオマス特性の二重計上を完全に防ぐことには限界がある」と話す。

コストも課題に

こうした信頼性の課題を乗り越えた先には、コストという大きな課題も立ちはだかる。三井化学の松永氏はバイオマス原料のコストについて、「モノによりバラバラだが、(石油由来と比べて)大体数倍にはなる」と話す。高い原料費を価格転嫁することを供給先や消費者に受け入れてもらう必要がある。そのためには素材の脱炭素化の意義やマスバランス方式の仕組みなどについて様々な情報を提供し、理解を深めてもらうことが不可欠となる。

バイオマスプラスチックの普及率は世界全体でもいまだ1%未満とされている。普及率向上に向けた手段として広がりつつあるマスバランス方式だが、「わかりにくさ」やコスト負担などの課題も山積する。同方式が社会に受け入れられていくためには、メーカーのみならず政府や国際機関なども巻き込み、信頼性の担保や消費者への啓発などの仕組みを整備していく必要がある。

(日経ビジネス 松本萌)

[日経ビジネス電子版 2024年7月30日の記事を再構成]

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