オフィスに設置した専用の冷蔵庫からサラダや旬の果物などを好きな時に食べられる

企業のオフィスに冷蔵庫を設置し食品を提供する「置き社食」の市場が広がっている。スタートアップのKOMPEITO(コンペイトウ、東京・品川)では直近の累計導入台数が約1万3000台と3年前の6.5倍になった。背景には既存の社員食堂からの置き換えに加えて、人手不足の深刻化で地方企業が従業員の福利厚生の充実に動いていることがある。

「OFFICE DE YASAI(オフィスで野菜)のニーズが地方で高まっている。地元の有力企業や銀行との営業連携策も成果を上げている」。KOMPEITOの渡辺瞬代表はそう話す。東京、神奈川、愛知、大阪、兵庫、福岡以外の地方での導入比率は2024年8月時点で52%と4年前(19%)から大幅に上昇した。

オフィスに設置した専用の冷蔵庫からサラダや総菜などが好きな時に食べられる。企業は月額数万円からの利用料金を払い、従業員は1品100円で購入できる。既存の社員食堂よりも設置・運用コストが安く、手軽に従業員に健康に配慮した食事を提供できる。

ホテル大手のアパグループ(東京・港)は国内222拠点で「オフィスで野菜」を導入。コロナ禍から客足が回復し、ホテル業界は人手不足が深刻だ。社員満足度を上げて人材の定着を狙う。

沖縄県で薬局を展開するすこやかホールディングス(沖縄市)は40店舗に導入した。近くにコンビニがなく、休憩時間が不規則で食事をする場所の確保が難しい中で、「福利厚生の充実が図れる」と判断した。

市場の成長性に投資家も注目する。KOMPEITOはこのほどベンチャーキャピタル(VC)など14社を引受先とする第三者割当増資で10億7000万円を調達した。同社は北海道、千葉、和歌山、広島、福岡、沖縄の6カ所に製造・物流拠点を持つ。各地域で取れた野菜をサラダにして地域内の企業に届ける。10月に東海地方に新たな拠点を立ち上げるほか、総菜やサラダを作るメーカーや地方のスーパーマーケットのM&A(合併・買収)も進める。

置き型社食サービス「オフィスおかん」を手掛けるOKAN(東京・豊島)も地方で顧客を伸ばしている。もともとは大手企業やIT企業などが多かったが、最近は人手不足を背景に宿泊、建設、運輸・物流といった現場を持つサービス業の利用が急増した。

OKANは中小の建設業などで導入が進む(福島県会津若松市のワシオ商会)

例えば、宿泊・飲食の23年の導入拠点数は前年の5倍になった。数人から10人程度の小規模な拠点でも導入でき、「社員食堂がなかった企業が導入する事例が多い」(同社)という。

地方の小規模拠点では近隣に弁当を購入できる場所が少なく、置き社食の需要は高い。

ただ、OKANの沢木恵太代表は「置き社食だけで人手不足が解決できるわけではない」と話す。同社は組織診断など人材定着の支援にも力を入れる。従業員向け説明会を開くなど離職を防ぐサービスもセットで提供し、人的資本経営を後押しする。

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