<まちビズ最前線>
 社会課題の解決に企業側から自治体の協力を求める「逆プロポーザル」(逆プロポ)という手法が注目されている。渋谷区のスタートアップ「ソーシャル・エックス」が展開し、官と民が協力して新しい事業を立ち上げる「官民共創」の一翼を担っている。(砂本紅年)

官民共創の拠点「アーチ」では官民、業種を超えて社員らが自由に意見交換する場をつくることができる=港区の虎ノ門ヒルズ内で

◆20件以上のプロジェクト成立

 「逆プロポは市民サービスの向上に役立つ。地元に戻った後はノウハウを生かしたい」。4月から1年の期限で、同社に出向中の愛知県豊田市の職員、中根慶柾(よしまさ)さん(32)は力を込める。  逆プロポは、自治体が民間企業に提案や企画を募り、予算をつける「公募型プロポーザル」の逆バージョン。企業側が関心のある社会課題や予算を提示し、自治体が課題解決に向けた企画やアイデアを提案する。  名乗りをあげた自治体は、予算をかけずに社会課題解決の糸口を得る。企業は、自治体との共同事業によって信頼性が向上し、契約や投資の呼び込みを期待できる。これまでに医療、防災、子育て支援などの課題解決に関する20件以上のプロジェクトが成立した。

◆行政にも「考える力」を

官民の文化の違いを理解する人材育成のため4月からソーシャル・エックスに出向中の愛知県豊田市の中根慶柾さん

 豊田市は2022年、東京の情報サービス会社による自治体の公開データに関するプロジェクトに応募し、半年ほど意見交換した。  新規事業にはつながらなかったが、市情報戦略課の神谷和磨さん(39)は「行政が自ら『考える力』を高めなければ時代に遅れ、社会課題の根本解決はできない。逆プロポは行政側も考えなければならない場面が多い点がいい」と話す。その後、ソーシャル・エックスの別サービスを通じて、さまざまな行政課題について数社と継続的に意見交換中。中根さんの出向も、今後の「官民共創」推進に向けた人材育成の一環だ。

◆「今は存在しない価値」一緒につくる

 同社は、港区の新規事業創出支援拠点「ARCH(アーチ)」内で、官民共創のアドバイス役としても活動している。拠点に登録する大手企業120社と全国の自治体をつなぎ、社会課題解決に向けた対話や交流を進める。企業が自治体に自社製品・サービスの営業をすることは禁止しており、利用自治体の安心感につながっているという。

昨年秋、ソーシャル・エックスの研修プログラムに参加し、官民共創のあり方について考えた豊田市職員ら

 同社ディレクターの志賀久美子さんは「官民共創は、『今は存在しない新しい価値』を官民で一緒につくること」と強調。「欧州を中心に、社会に良い影響を与える事業を展開しているかが企業への投資判断の要素となっており、企業の関心も高まっている」と話した。 

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