全国一律の通信のユニバーサルサービスについて政府や与党で見直し論議が進んでいる。人口減少の加速する今後の日本で、良質かつ低廉な通信網を国土の隅々まで維持展開するのは容易ではない。
衛星通信など広い範囲をカバーする新技術を積極的に使い、インフラ維持に要する国民負担を低減する工夫が不可欠だ。昨年来のNTT法の改廃論議を契機として、規制の形を見直すときだ。
現行の法体系は40年前に制定されたNTT法が柱で、メタルの固定電話を全国どこでも提供する責務がNTTに課されている。
だが、いまの通信の主役は携帯通信や光ファイバーによるブロードバンド通信であり、固定電話に頼る人はめっきり減った。規制の見直しは遅すぎたくらいだ。
今後のインフラを考える際のキーワードの一つは「技術中立性」だ。固定電話や光ファイバーなど特定の技術に偏ることなく、多様な技術の混成で効率よくネットワークをつくる発想である。
例えば米社が主導する低軌道の衛星通信は地球全体をカバーし、今年1月の能登半島地震で非常時の通信手段として存在感を示した。日本勢もソフトバンクやNTTドコモが成層圏を旋回する無人飛行機に基地局を載せるHAPSという技術の実用化をめざす。
空から無線を降らせるこうした技術は、地上に回線を張り巡らせる有線通信に比べて、人口がまばらな過疎地を含め広い範囲を簡単にカバーできる利点がある。
現状では通信品質などで粗削りな面もあるが、飛躍の期待できる新技術の可能性を取り込んだ未来先取り型の規制が望ましい。
日本は官民とも「光ファイバー信仰」が強く、現に光ファイバーの世帯カバー率は99.8%と米国などを大きく引き離す。だがインフラの持ち腐れというべきか、社会や産業のデジタル化では他国に見劣りしている。
手持ちのインフラを生かして社会や経済の活力を高める道筋を真剣に考えるときだ。
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