吉野家ホールディングス(HD)が、ダチョウ関連の事業を本格化させようとしている。28日、国産ダチョウの肉を使った丼や脂を使ったスキンケア商品の販売を始めた。健康志向をアピールし、女性の顧客獲得の狙いもうかがえる。ただ、吉野家を巡っては2年前、役員の女性蔑視発言が問題化した。新機軸に広い支持が集まるだろうか。ダチョウ事業の可能性は。(中川紘希)

◆記者も食べてみた

 国内1200超の店舗のうち約400店で、計6万食限定で提供される「オーストリッチ(ダチョウ)丼」。記者は30日、東京都内の店舗で味わった。

オーストリッチ丼の限定販売をPRする吉野家=東京都港区で

 クセのないさっぱりした赤身肉で、一枚一枚が大きく、食べ応えがある。ダチョウのガラを炊き出したスープもうまみがあって濃厚だ。値段は税込み1683円。他の商品と比べると高い値段だが、高級感のあるローストビーフ丼を食べたと思えば違和感はない。  吉野家HDによると、ダチョウ肉は高タンパク質で鉄分豊富でありながら、低脂肪、低カロリー。また牛、豚、鶏と比べ、飼育に必要な飼料も少ないという。

◆危惧される世界的な食料不足…注目される「第4の肉」

 同社はダチョウを牛、豚、鶏肉に次ぐ「第4の肉」とする目標を掲げる。背景には、世界的な食料不足に備える狙いがある。  新興国の経済発展で、嗜好(しこう)品として肉などの「タンパク質」を消費する傾向が高まり、地球規模でのタンパク質の供給不足が懸念される。同社は、牛丼などが提供しにくくなる可能性を見据え、代替肉としてダチョウ活用を模索している。  同社は茨城県にダチョウ牧場を持つ。ただ飼育頭数は約500羽にとどまる。供給量は限られており、担当者は「1年かけて限定販売用の肉を確保した。再び販売するには、また1年はかかる」と明かした。

走り回るダチョウ(写真は記事とは直接関係ありません)

 ダチョウは主力商品になり得るのか。ダチョウを研究する京都府立大の塚本康浩学長は「第4の肉としての期待はずっと前からあるが産業として定着していない」と指摘する。約30年前に世界的に牛海綿状脳症(BSE)が広がったことで、牛に代わる肉が求められ、国内でもダチョウを育てる生産者が増えた。ただ育成期間は1年で、40〜50日で出荷できるブロイラーなどと比べて時間がかかること、食用の部分が限定されることから、生産者は現在、減少傾向という。塚本学長は「今回、全国チェーンがダチョウを食べる機会を与えてくれた。ダチョウが評価され食用として飼育が拡大するかどうかの最後のチャンスになるのでは」と位置付ける。

◆ダチョウのオイルで女性に浸透?

 吉野家HDは、ダチョウの肉を使うだけでなく、脂を活用したスキンケア事業にも手を広げ、収益率を高めようとしている。ダチョウの脂が美容成分を肌に浸透しやすくする特長に着目。化粧水を付ける前に使う「ブースターオイル」(5720〜1万5400円)などを販売している。  経営戦略コンサルタントの鈴木貴博さんは「これまで牛丼店として必ずしも女性の印象は良くなかった。ただ独自性があるダチョウの化粧品は(人気を集める)可能性がある」とみる。  2022年、グループ企業の吉野家の常務(当時)が社会人向け講座で若者を狙ったマーケティング戦略に関して「生娘(きむすめ)がシャブ(薬物)漬けになるような企画」と発言。批判を浴びた。  当時の悪いイメージを振り払い、ダチョウを使って女性に浸透できるか。経営コンサルタントの坂口孝則さんは「過去の発言が直接影響することはないだろう」としつつ「牛丼店として認知度は高いが、スキンケア事業と親和性は高くない。商品としての価値が高くないと継続的な購入にはつながらない」と指摘した。 

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