日本の百貨店が転機を迎えた。高度経済成長期に日本消費の原動力となったが、ショッピングセンターや電子商取引(EC)など競合が増えて市場はピークの半分以下だ。足元はインバウンド(訪日外国人)客の恩恵で免税売上高は過去最高ペース。都市部店が活況の一方で、7月末には高島屋岐阜店(岐阜市)が閉店し地方の苦境が鮮明だ。

6月に開始した連載企画「超百貨店」は百貨店の知られざる一面を描いた。各地の事例には消費の未来を占うヒントも多い。これまでの記事のポイントをまとめた。

・百貨店の主力、高級ブランドやデパ地下食品に
・インバウンド活況、定着策が課題
・百貨店トップも現状に危機感、改革急ぐ

新富裕層をつかむ

案内係が操作するタイプの高島屋日本橋店(東京・中央)のエレベーターは百貨店の歴史を感じさせる

呉服店の三越が「デパートメントストア宣言」を出し日本の百貨店が始まってから12月で120周年を迎える。かつての主力だった中価格の衣料品の変わりに高級ブランド品やデパ地下の食品が主軸となってきた。LINEの活用などで外商にも「タイパ」を求める若年層のニーズに応える動きが広がってきた。

【関連記事】

  • ・百貨店生誕120年 稼ぎ頭、服から「ヴィトン」に
  • ・百貨店外商、LINEでサクサク タイパ重視で若者もとりこ
  • ・九州、百貨店にも半導体特需 TSMC進出で乱戦模様

デパ地下革命? 池袋西武7階に「デパナナ」登場

改装中の西武池袋本店がデパ地下の一部売り場を7階に移転した「デパナナ」を開業した(東京都豊島区)

そごう・西武は米ファンド傘下となり、旗艦店の西武池袋本店(東京・豊島)は家電量販店のヨドバシカメラも入居する。既存の売り場は大改装に入り、食品売り場が7階に移動した。その名も「デパナナ」。業界の常識外の大実験に注目が集まる。

【関連記事】

  • ・西武池袋「デパ地下→デパナナ」 食品7階、勝負の大実験
  • ・ビックカメラの池袋大戦 ヨドバシ参入で三つどもえ

百貨店にコンビニの新鮮さ、ノウハウ注入

那覇市のデパートリウボウが新しく開業したフルーツ店「琉貿果実苑」

百貨店とコンビニエンスストア。同じ小売業ではあるが、両者が連携する例はほとんどない。沖縄県地盤の小売りグループ「リウボウ」は傘下にファミリーマートのフランチャイズチェーン(FC)店を抱えることもあり、ファミマの商品開発などのノウハウを百貨店に取り入れる全国でも珍しい取り組みを始めた

【関連記事】

  • ・沖縄リウボウ、百貨店に「ファミマ」の鮮度 磨く開発力
  • ・沖縄ファミマ「地域ド密着」で勝つ セブン進出5年

百貨店、訪日客消費のホント

海外から訪れた夫婦は新婚旅行で日本を選び銀座での買い物を楽しんでいた(東京都中央区)

百貨店の1〜6月の免税売上高は前年同期比2.6倍の3344億円と上半期として初めて3000億円を超えた。押し上げ要因であるインバウンド(訪日外国人)客消費について、日本経済新聞の若手記者2人が東京・銀座で取材し実態に迫った。東南アジアや欧米と客層が広がっている。新型コロナウイルス禍前の主力だった中国客も戻りつつある。一過性に終わらせないための集客策を各社とも練り始めた。

【関連記事】

  • ・Youは銀座で何買った? 訪日客、推しはベタな日本商品
  • ・中国人、高級ブランド「訪日買い」 グッチも円安でお得
  • ・7月の訪日客、329万人で最高更新 円安が消費押し上げ

三越伊勢丹社長、百貨店モデル陳腐化の指摘

三越伊勢丹HDの細谷敏幸社長と伊勢丹新宿本店(東京・新宿)

百貨店国内最大手、三越伊勢丹ホールディングス(HD)の細谷敏幸社長は「百貨店のビジネスモデルは120年変わっていない」と述べ、個人消費の鈍りや競合増で「陳腐化する」と指摘した。最大手のトップも自社や業界の現状に危機感を隠さない。

【関連記事】

  • ・三越伊勢丹社長「120年の百貨店モデル、顧客分析で変革」
  • ・三越伊勢丹、不動産開発に5千億円 30年度から新宿など
  • ・三越伊勢丹HD、地方店も再開発 ホテルなど複合型計画
  • ・三越伊勢丹HD、社外取に助野富士フイルムHD会長
  • ・三越伊勢丹、中国・上海の百貨店を閉店 27年の歴史に幕

広がる海外百貨店コラボ、韓流がキラーコンテンツ

韓国アパレルブランド「emis(イミス)」は日本の店頭で初めて販売した(東京都渋谷区の渋谷パルコ)

海外の有名百貨店との連携がじわりと広がりつつある。日本上陸前の商品の「輸入」は消費者にとって新鮮だ。韓国や東南アジアの珍しい品々が日本の若者の心をわしづかみにする。韓流関連の商品はやはりキラーコンテンツだ。

【関連記事】

  • ・韓国百貨店・パルコが韓流タッグ MZ世代、渋谷で沸く
  • ・「Jフロントと富裕層を相互送客」タイ百貨店大手CEO
  • ・Jフロント免税売上高、3年後4割増 海外リピーター育成

不易流行の姿勢、今こそ重み(編集者から一言)


国内市場が縮小の一途をたどり、小売業の中でも百貨店は総合スーパー(GMS)と並んで「オワコン(終わったコンテンツ)」と指摘されることが少なくない。しかし活況なインバウンド消費を受けて、立錐(りっすい)の余地もないほど人にあふれている都市部の店や地方の元気な店がある。このギャップをどう説明するのか。こうした疑問から「超百貨店」の企画はスタートした。

取材を進めると厳しい面だけでなく、新しい試みが続々と生まれてきている現場に出会えた。不易流行につながる挑戦的な姿勢には好感を持った。

三越日本橋本店(東京・中央)の歴史が書かれた看板(6月)

一方でそれらの取り組みを含めて対外的な情報発信は少ないとも感じた。イオンやファミリーマートなどスーパー・コンビニエンスストアが力を入れる「リテールメディア(小売り広告)」は、一部手掛けてはいるものの存在感は低い印象だ。百貨店こそ強みがあると思う。もったいない。地方店の苦境は鮮明で再編のマグマが静かにたまっている。

百貨店は地域の顔であり、多くの人にとって買い物の原体験の場所と言える。ゆえに撤退ともなれば一大事だ。日本の消費や生活文化を象徴する存在であることは今も変わらない。

苦境にある実態から目を背けるわけにはいかず、改善点は指摘したい。新たな価値を提供する挑戦的な取り組みを引き続き発掘していくつもりだ。

(大本幸宏)

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。