携帯電話事業の展望を説明する三木谷氏(6月に開いた楽天モバイルの説明会、東京都世田谷区)

楽天グループが携帯キャリアの第4極として存在感を高めている。携帯電話の契約数を増やし、課題のARPU(1契約あたりの月間平均収入)にも改善の兆しが出てきた。先行するNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの競合3社が無視できない存在になりつつある。競合の包囲網を突破し、成長速度を維持できるかが焦点だ。

楽天Gが8月上旬に開いた2024年1〜6月期決算の説明会。73ページに及ぶプレゼンテーション資料のなかで、ある1ページが注目を集めた。電話番号を変えずに他社に乗り換える「番号持ち運び制度(MNP)」を使い、競合3社との間で契約を切り替えた利用者数を初めて公表したのだ。

それによると、楽天Gは23年7〜12月に約3000件の流出超だったが、24年1〜6月は約30万件の流入超に転換した。契約数は6月末時点で710万件と、23年末に比べ112万件(19%)増えた。増加分のうち約3割がMNPを経由した3社からの乗り換えだった計算になる。

23年末ごろから楽天カードの会員向けに、携帯電話の販売促進を強めたことなどが奏功した。さらに春商戦以降は「データ使用量の多い若年層の獲得が加速している」(三木谷浩史会長兼社長)という。

3社の牙城を少しずつ切り崩している――。追加した1ページには、そんな強気のメッセージを込めたように読み取れる。

MNP経由の契約者は主回線としての利用が多く、ARPUを押し上げる効果もあるとみられる。24年4〜6月期のARPUは2021円と1〜3月期に比べ55円増。直前四半期比では3四半期ぶりに増加に転じた。

楽天Gの料金プランは「Rakuten最強プラン」だけだ。データ通信量が月3ギガ(ギガは10億)バイト(GB)までは料金1078円、20GBまでは2178円、それ以上はいくら使っても3278円で変わらない。

データ容量の大きい動画を好きなだけ楽しみたいという利用者の需要をつかんでいる。6月には電波がつながりやすい周波数帯「プラチナバンド」のサービスも始めた。データ無制限と通話品質という2つの歯車がかみ合いつつある。

競合は強気の姿勢を崩していない。ソフトバンクの宮川潤一社長は8月上旬に開いた決算説明会で、楽天Gについて「脅威ではあるが、現状はほとんど影響がない」と語った。ドコモやKDDIも同じようなスタンスだ。

とはいえ、その勢いは無視できないとみて警戒を強めている。ソフトバンクは「楽天対抗」(宮川氏)として7月末、格安ブランド「LINEMO」でデータ使用料が月3GBまでは990円、10GBまでは2090円とする低価格プランを始めた。3GBでは楽天Gより安い点などを訴求している。

携帯事業5年目に入った楽天G。「0円プラン」で業界の料金体系に風穴を開けた半面、存在感は小さいままだった。総務省によると、3月時点の契約者数シェアは2.7%の4位。首位のドコモは34.7%、3位のソフトバンクが20.4%だ。

上向いたARPUでみても、3000円台後半を保つ3社とは大きな開きがある。なにより携帯事業はまだ巨額の赤字を計上している。競合の包囲網が強まるなか、第4極としての足場固めは続く。

(松田直樹)

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