日銀が追加利上げを決め「金利のある世界」が現実味を帯びてきたことに、能登半島地震の被災地の事業者が不安を感じている。金融政策の正常化は、一般には円安による物価高に歯止めをかける効果が期待されるが、事業再建や建物の復旧をするために多大な資金を借りなければならない被災地の事業者にとって、金利負担が膨らむことは大きな障害となる。(高本容平、中平雄大、伊東浩一)

牛に餌を与える西出穣さん。利上げによる借入利息の負担増を心配する=今年5月、石川県能登町で

◆自宅再建は…住宅ローンの上昇心配

 「コロナ禍を乗り切るために多額の資金を借りたが、その返済金利がどうなるかが一番心配」。石川県能登地域の食肉卸会社の男性役員が危惧する。「地震から経営を再建しようという中で利上げされれば、中小企業はやっていけない」  地震で全壊した自宅も建て直す必要があるが、「住宅ローンの変動金利も上がるだろう。ただでさえ建築費が上昇していて二の足を踏んでいる。このまま、みなし仮設住宅に居続けるしかないのか」と声を落とす。  輪島塗販売会社の男性社長は「地震で取引先の多くの職人が工房を失い、別の場所で仕事をしている。借り入れ負担が重くなると、再建が遅れてしまう」と懸念。「日本の伝統工芸を守りたいなら、国は利払い負担を軽減する政策を打つべきだ」と求める。

◆牧場の建て替えに数千万円、金利上昇が経営負担に

 石川県能登町の西出穣(みのる)さん(36)が営む「西出牧場」では、地震で2棟の牛舎のうち1棟が全壊。建て替えのため金融機関から数千万円単位の借り入れが必要になる。「最初のうちは金利の軽減措置があるが、その時期が過ぎて、さらに金利が高くなると長期的な牧場経営の負担にはなる」と心配する。被災した自宅の建て替えで住宅ローン金利も気がかりだという。  半面、円安で高騰していた輸入飼料や燃料は利上げで円高に振れると値下がりする可能性もある。「牧草地で使うトラクターの燃料代は1.5倍くらいに上がった。猛暑なので牛舎の扇風機をフル稼働させているが、電気代も倍近くに上がっている」という。ただ、値下がりの効果より、復旧費用にかかる金利負担増の方が大きいとみている。

◆影響は運転資金の借入にも

 帝国データバンクによると、2023年度の企業(約8万社)の平均借入金利は前年度比0.04%増の1.02%(速報値)と既に上昇している。従来は収益力がそれほど高くない中小事業者であっても、超低利で運転資金を借りて経営を維持することができたが、追加利上げによって運転資金などの借入金利は一層上がる見込みだ。  帝国データは、企業の借入金利が0.5%上昇した場合、国内企業約9万社の3.8%が経常赤字に転落する恐れがあると試算する。被災地の中小事業者にとってはより深刻な状況が予想され、興能信用金庫(能登町)の田代克弘理事長は、利上げは被災地の事業者に対して「影響がある」と語る。  ただし、地震の復旧にかかる借入利息と、運転資金の利息とは整理する必要があるとくぎを刺す。復旧資金には低利な制度融資や補助メニューが用意されているといい、「金融機関側から提案し、それらを極力活用してもらうことが大事」と説明する。  運転資金の利払い負担増への対応については「中小企業は価格転嫁ができていない。法律で守られているのに下請け、孫請けは価格交渉ができない。金融機関も中小の現状について声を上げるが、利益を食われているこの部分を改善できるよう、政治の力で変えなければならない」。田代理事長は下請け構造にメスを入れる必要性を訴えた。 

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