学生の質問に答えるサッポロビールの社員

サッポロホールディングス(HD)は社員と東京理科大の学生が一緒に商品の需要予測の方法について学ぶ勉強会を開いた。物流課題の解決に向けて設立された社内大学の取り組みの一環。運転手の残業規制に伴い輸送能力の低下が懸念される「物流の2024年問題」への対応も迫られるなか、物流事業に精通した人材の育成・獲得につなげたいとしている。

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「あなたはサッポロビールのアナリストです。実際に『黒ラベル』の需要予測をしてみましょう」

サッポロHD本社で7月25日、約3時間に及ぶ物流関連の勉強会が開かれた。参加したのは東京理科大で企業のサプライチェーン(供給網)の仕組みを学ぶ授業を履修する学生13人と、サッポロの社内大学「サッポロロジスティクス☆人づくり大学」の受講者10人の計23人。

人づくり大学は物流課題の解決には全社的に物流の仕組みの理解が必要として19年に設立された。物流に直接関わらない営業や生産、サポート部門を含むグループ各社の従業員が公募で参加している。

勉強会では3〜4人のグループごとに24年4月に黒ラベルが漫画「進撃の巨人」とのコラボ商品を発売した際の販売推移を、前年の実績や似た施策のデータから予測。実績値で答え合わせをした。

予測値と実績値との差異について、グループごとに「今年はゴールデンウイークが平年よりも暑く、予測よりも売り上げが伸びたのではないか」「新型コロナウイルス禍が落ち着いて、お酒を飲む機会が前年よりも増えたのではないか」などと分析した。

勉強会の最後にはグループごとに、どのような要因がビールの売り上げに影響するか発表した

HD傘下のサッポロビールのサプライチェーンマネジメント部で実際に需要予測を行う須田雄太氏は、受講生の分析を受け「それらも要因の1つ」とし、「実際は数え切れないファクターを考え、手探りの状態で予測をしている」と説明した。

サッポロビールは23年から人工知能(AI)を活用した需要予測システムを導入している。AIを育成・運用することで、これまで人が担ってきた需要予測のノウハウを蓄積・継承しながら、需給管理業務の高度化を図る。

須田氏は「需要予測はサプライチェーンの起点で、外れると下流にいくほど影響は大きくなる」とし、物流の2024年問題への対応も求められるなか、正確な需要予測の必要性を説いた。

そのうえで需要予測を人の経験や勘といった属人的なものではなく、「一定の質を保つために、常に平均点を出せる需要予測AIが必要となっている」とし、デジタルトランスフォーメーション(DX)に精通した人材の需要が高まっていることを強調した。

サッポロと東京理科大との産学連携の取り組みは24年で3年目。新型コロナの感染拡大で、23年まではオンラインとのハイブリッド開催だったが、初めて完全リアルで実施し、より活発な議論が繰り広げられた。

東京理科大の石垣綾教授は「データの裏に潜む状況を考える経営工学の学びにおいて(サッポロとの産学連携は)願ってもない機会」と話した。

サッポログループ物流(東京・渋谷)の井上剛ロジスティクスソリューション部長は「金融やIT(情報技術)、コンサルを志望する学生も多いが、メーカー物流も就職先の1つとして選んでくれている」とし、産学連携の取り組みを通じて「最終的には採用にもつなげたい」と語った。

人づくり大学は24年で6期目を迎え、修了生は100人を超える。井上氏は「卒業生が物流の業務改善に関わった例もある」と成果を強調する。「メーカーとして商品を作り、運ぶ全体像を見てほしい。商品の愛着にもつながる」と社内でも物流事業を学ぶ意義を語る。

(荒木玲)

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