<マイストーリー>
 食品の表示偽装で「トレーサビリティー(追跡可能性)」への関心が高まっていた2002年、第1次産業向けITコンサルティング業「シフラ」(江東区)は、店頭に並ぶ食材はどこで誰が作ったかを追跡できるシステムを、全国で初めて構築した。社長の竹熊俊哉(としや)さん(62)は「生産者の『良いものを作りたい』という意欲を高め、1次産業を支えたい」と力を込める。(鈴木太郎)

食材の品質管理に役立つシステムを構築した竹熊俊哉さん=江東区で

 同社は、イトーヨーカ堂のプライベートブランド(PB)「顔が見える食品。」などの追跡システムの設計や品質管理を展開する。PBで作物や肉、魚を売り出したい生産者の栽培、養殖方法を厳しく審査。基準をクリアした生産者だけが、ブランドを掲げて商品を販売できる。

◆切り花市場に目をつけ

 開始から約20年で野菜、果物、肉、魚、米などの生産者7500人以上が同ブランドで販売。スーパーで購入した消費者は、パッケージのQRコードを読み込むと、生産者の情報を知ることができる。

シフラがブランドの維持管理を手がける「顔が見える食品。」のパッケージ

 竹熊さんは元は製鉄会社の社員。バブル期の事業多角化でパソコン販売事業を任されたことをきっかけに、インターネットを使った新規事業に興味を持った。中央省庁に出入りして伸びそうな分野を探し、需要によって価格が大きく変わる切り花の市場取引を合理化する事業にまず取り組んだ。  日によって出荷量の変動が大きい花を業者が安定して仕入れられるよう、全国の産地とつながる複数の市場をつないだシステムを設計した。製鉄会社から独立し、00年、生花店や結婚式場、葬儀場などに向けたサービス「ハナスタ」をスタート。社名のシフラはラテン語で「ゼロ」や「暗号」を表すという。

◆畑ごとに品質管理の考え方

 次に目を付けたのが「食の安全」。ちょうど残留農薬や牛海綿状脳症(BSE)が話題になった頃。古里の熊本県で、医師として有機農法の普及に努めていた親族の存在が頭をよぎった。有機栽培をはじめ、消費者に安心だと支持される食材の流通を、システムで下支えできないかと考えた。安心の担保のため、農薬や肥料の施された状況などについて、作物が育った畑ごとに品質管理する考え方を初めて導入。膨大なデータを扱うシステムをなるべく少人数で運用できるよう、設計には工夫を重ねた。

有機農法の普及に努めていた親族の医師の著書「土からの養生読本」を愛読しているという 

 ヨーカ堂以外にも、複数のスーパーチェーンとPBを下支えするサービスを展開する。ブランドの審査をクリアした生産者は全国平均と比べて後継者がいる確率が高い。消費者の安心にとどまらず、作り手の意欲向上にも貢献している。 

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