古河電気工業は北海道鹿追町で二酸化炭素(CO2)とメタンから液化石油ガス(LPガス)を製造する実証プラントを建設する。牛のふん尿由来のバイオガスを使うのが特徴で、商用化する2030年度に1000トンのLPガスを製造する計画だ。カーボンニュートラル(温暖化ガス排出量実質ゼロ)なLPガスの供給ノウハウを蓄積し、海外展開を狙う。

実証プラントは鹿追町環境保全センターの敷地内に建設する。事業費は約20億円。センターにはすでに町のバイオガスプラントがあり、生産したバイオガスで発電もしている。古河電工は一部のバイオガスを購入し、LPガス製造に使う。26年度中に年間最大200トンのLPガス製造能力を確保する。

実証プラントでは、酪農家などから集めた牛のふん尿由来のバイオガスを用いる。バイオガスは4割がCO2、6割はメタンで構成される。古河電工はバイオガスから一酸化炭素(CO)と水素をつくり、COと水素からLPガスを生成する。同社が開発する触媒が、これらの反応を促す。一連の過程では新たにCO2を排出しない。

鹿追町環境保全センターでは家畜のふん尿などからバイオガス製造を手掛けている

実証プラントで量産化に向けた課題を洗い出し、28年度末の商用プラントの完成を視野に入れる。商用化に必要な技術開発や設備設計などは今後詰める。

30年度に計画する年間1000トンの生産量は、一般家庭約3000軒の年間使用量に相当する。供給面では岩谷産業の他に、出光興産と三菱商事が共同出資するアストモスエネルギーとも協力する。鹿追町外での供給も模索する。

8日に開いたプラント起工式で、古河電工の森平英也社長は「当社グループにとっても存在意義を示す拠点。将来のエネルギー供給の大きな柱となることを願っている」とあいさつした。喜井知己町長は「カーボンニュートラルなLPガスが企業や各家庭で利用できればすばらしいことだ」と応じた。

古河電工の森平社長(中央)と鹿追町の喜井町長(左から2人目)が起工式に出席した(8日、北海道鹿追町)

30年度の量産化と供給開始時の価格については「家庭の利用では現状から追加の負担がないようにしたい」(古河電工新領域育成部の福嶋将行部長)考えだ。

鹿追町の人口は7月末時点で約5000人弱、世帯数は2500世帯に満たない。町にとって「家庭で使うガスと言えばほぼ100%がLPガス」(喜井町長)という。輸送や貯蔵のしやすさから「災害時のエネルギー源にも有効」とし、町役場でもガス空調「ガスヒートポンプエアコン(GHP)」で使用する計画だ。

古河電工は22年に鹿追町と包括連携協定を結んでおり、実証に向けた検討を重ねてきた。同社の触媒の性能も向上し、これまでよりLPガスの収率も高まっているという。

35年度をめどに世界展開も見込む。23年にオランダのエネルギー会社、アストモスエネルギーの3社で海外でのグリーンLPガスの製造や供給に向けて協力する合意に至った。アストモスエネルギーは世界各国から日本国内へのLPガス輸入を担っており、海上や陸上輸送のノウハウがある。海外で生産したLPガスを日本へ輸入する構想だ。

23年公表の野村総合研究所調査によると、世界のLPガス市場は21年の1385億5000万ドルから、29年までに年平均成長率6.5%で、2293億ドルにまで拡大する見通しだ。古河電工の福嶋部長は、バイオガス由来のLPガスを事業展開する地域について「ガス供給のインフラが途上なエリア」を示唆する。南米やアフリカ、東南アジアが候補地域になりうるという。

(神野恭輔)

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