トリドールHDがラーメン店「ずんどう屋」で中国に再挑戦(写真=トリドールHD提供)

日本から東に6000キロ以上離れた米ハワイから、北西に9000キロ以上先の英ロンドンまで、国内外で約1100店舗を展開する日本発のうどん店チェーン「丸亀製麺」。運営する外食大手トリドールホールディングス(HD)は4月8日、中国・上海でとんこつラーメンの「ラー麺ずんどう屋」をオープンした。

ずんどう屋は兵庫県姫路市発祥のラーメンチェーンで、17年にトリドールHDが買収。国内約90店舗を展開している。

トリドールHDが展開する約20のブランドの中で最も有名なのが丸亀製麺だが、中国にはあえて日本式のラーメンで攻めることになる。トリドールHDの副社長兼最高執行責任者(COO)を務める杉山孝史氏は「中国でとんこつラーメンの市場は非常に大きく、今後もどんどん成長していく可能性がある」と話す。

ローカルバディと200店舗展開へ

トリドールHDにとって中国本土は再挑戦だ。初進出は12年。この時に展開した業態は丸亀製麺で、ピーク時には現地で約70店舗を展開した。だが、オペレーションの課題を抱えたまま新型コロナウイルスが流行。経営を維持できなくなり、22年に全店を閉めた苦い過去がある。

杉山氏は中華圏での店舗展開について「大きいが難しい市場だった」と振り返る。また、現地のニーズやインサイトをつかみ切れていなかったことも失敗の原因の一つという。

国内で認知度の高いブランドを持ち、それを運営するノウハウも持っていたとしても、国内と同じやり方では通用しないことを痛感した。こうした失敗から、海外展開においては現地の事情をよく知るパートナー企業「ローカルバディ」の発掘を重視するようになった。

ローカルバディと組むことで、現地で複数の業態を同時展開するなど効率的な出店ができるようになったという。現地のよりリアルな意見を参考に戦略を考えられるメリットもあり、この戦略によってトリドールHDは世界各地に店舗網を拡大することに成功してきた。

中国本土を再び攻めるにあたってトリドールHDが選んだローカルバディが、外食産業を中心に投資を行うプライベートエクイティ(PE=未公開株)ファンドの上海睿筧(シャンハイルェイジェン)だった。23年12月に合弁会社「RUIDOLL Holdings Limited(ルイドール)」を設立済みで、中国でずんどう屋の展開を本格的に進める。上海の1号店を皮切りに、当面の目標として中国本土で200店舗の展開を目指す。

中国でも、日本と同様のレシピで「日本式」の商品として提供。国内で人気の「味玉らーめん」は36元(日本円で約750円)と国内店舗(960円)より安く設定した。

「味玉らーめん」を日本円にして約750円で販売する(写真=トリドールHD提供)

中国で展開している他のラーメン店は「日本発でおいしいが非常に高いものと、価格は安いが品質が良くないもので二極化している」と杉山氏は話す。ずんどう屋は日本式の高い品質の商品を手ごろな価格で販売することで差別化を図る。また、ローカルバディの助言を基に塩みを抑えた味付けのラーメンや、味玉らーめん以外のメニューも積極的に展開するなど、現地のニーズを反映した。

日本式の高い品質を保ちながら手ごろな価格で提供する(写真=トリドールHD提供)

ただ、現地企業なら誰でもローカルバディになれるわけではない。過去に中国の丸亀製麺を現地企業に任せた際、目先の収益を得るために「サバの塩焼き」や「たこ焼き」などをメニューに加える店舗も出てきたという。これらは、麺類の業態として中国で成功したいトリドールHDの考えと合致していなかった。

今回の中国本土再進出では、トリドールHDの考えを理解してもらうことを何より重視した。そして話し合いを重ねた末、パートナーに選んだのがシャンハイルェイジェンだった。

外食業界に詳しい、いちよし経済研究所首席研究員の鮫島誠一郎氏はトリドールHDの強みについて、「外食に詳しい現地ファンドに出資して現地の情報を集めている。また、メニューなども自社のものにこだわりすぎず、現地の好みに合わせる柔軟さがある」と指摘する。

4年後に海外店舗数を3.5倍に

トリドールHDが中国攻略に執念を見せる理由の一つに、28年3月期までに海外店舗を3000店にするという壮大な計画がある。現在の海外店舗が約860店なので、今後4年間で3.5倍に増やす必要がある。中国本土の人口を考えると、同社の粟田貴也・社長兼最高経営責任者(CEO)が「出店目標を達成するためには、中華圏での本格展開が不可欠」と考えるのは自然だろう。

これまで海外での快進撃を支えてきたのは丸亀製麺だ。海外に約270店展開し、海外店舗全体の3割を占める。11年にハワイに初めて進出し、ワイキキ店では1カ月で約1億3000万円(23年8月)を売り上げる。欧州では21年7月、ロンドンに1号店をオープン。そして24年3月にはカナダ・バンクーバーに同国1号店を開いた。

24年3月にオープンした丸亀製麺のカナダ1号店(写真=トリドールHD提供)

もっとも、いくら日本食が世界的なブームとはいえ、うどんの一本足打法では3000店の目標達成はおぼつかない。このため、23年4月に買収を発表した英ピザチェーンなどのようにM&A(合併・買収)を活用しながら、丸亀製麺以外の国内ブランドの海外展開を順次進めている。

同社は、切りたて牛肉専門店「肉のヤマ牛」でも海外展開を進める考え。肉のヤマ牛は現在国内では20店舗ほどの展開にとどまっており、認知度が高いとは言えない。国内と海外と同時にブランド育成していく格好となりそうだ。

ずんどう屋か、肉のヤマ牛か、はたまた別ブランドか。いずれにしても、同社が掲げる「日本発のグローバルフードカンパニー」を実現するためには、丸亀製麺に続く第2のグローバルブランドを早期に確立する必要がある。

(日経ビジネス 関ひらら)

[日経ビジネス電子版 2024年5月2日の記事を再構成]

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