建交労軽貨物ユニオンは23年10月に記者会見を開き、契約終了撤回などを求めた

「何で会社を5年で辞めないといけないのかな?」。米アウトドアウエア大手のパタゴニア日本支社(横浜市)の札幌市内の店舗でパート社員として働いていた藤川瑞穂は、疑問を抱いた。同僚のパート社員は当たり前のように5年で職場を去っていく。

藤川は2019年から週2日8時間勤務し、月収は7万円前後。フレンドリーな職場で、ここで働くのが好きだった。13年の改正労働契約法は「非正規社員が通算5年以上働いた場合、本人が希望すれば無期雇用に転換できる」という「5年ルール」がある。これに対し、藤川は「無期転換逃れだ」と訴えている。

「声を上げないと、私もこの制度を認める加担者になる」。そう考えて21年、札幌地域労組に加盟。その後「パタゴニアユニオン」を立ち上げ、代表になった。

藤川は現在、同じ思いを抱えるパタゴニアの非正規社員らと、非正規社員が通算5年以上働いた場合の無期雇用転換を逃れようとする、会社のやり方に異を唱える。

雇い止め「合理的な理由ない」

そこで出会った札幌地域労組書記次長の桃井希生の協力を得て、23年12月23日には「1人ストライキ」を決行した。1人だけの「ぼっちスト」となったが、組合員とはSNS(交流サイト)でつながり、思いを共有できている。スト中に支援者の前で、SNSを通じて送られてきた応援メッセージを次々読み上げた。「働く人が大切にされる会社であってほしい」「この社会で働く労働者の一人として応援しています」。私は一人ではないと感じた。

藤川は23年12月23日にストを決行。支援者を前に、SNSの応援メッセージを読み上げた(写真:札幌地域労組提供)

藤川は23年末で雇い止めとなった。2月14日、雇い止めは不当だと、地位確認を求めて札幌地方裁判所に提訴した。

訴状によると、会社側は5年ルールを原則としている。22年2月時点で雇用期間が5年を超えるパート社員は101人おり、そのうち51人が無期雇用に転換した。全パート社員の26%に当たる。

また、23年5月時点で雇用期間が4年以上5年未満のパート社員は34人いたが、5年を超えて更新する予定のパート社員は22人との説明を受けた。藤川は「契約が更新されることを期待する合理的な理由がある。無期雇用契約を締結したい」などと主張した。

これに対し、会社側は日経ビジネスの取材に「詳細を把握しておらず、コメントは控える」としている。

今、全国各地で藤川氏のような、日々の働き方への疑問を個人ユニオンに加盟し、解決しようとする労働者が増えている。複数の企業からなる非正規雇用者専門の労働組合や、人手不足や低賃金に悩む回転すし業界の労組など、一つひとつの勇敢な闘いが、社会を変えるエネルギーになり始めている。

ヤマト運輸でも批判の声次々

労組を通じ、経営と対決するのは、正社員やパート社員だけではない。働き方の多様化を背景に増加し続ける、個人事業主も声を上げ始めている。

ヤマト運輸は23年6月、配達を委託していた個人事業主約2万5000人、パート社員約4000人との契約を24年1月末で終了すると通達した。経営合理化の一環として、メール便の配送を日本郵便に移したことに伴う判断だった。

突然の知らせは波紋を呼び、個人事業主やパート社員からはヤマト運輸への批判が相次いだ。

こうした声を受け止め、ヤマト運輸と対峙するのが、ヤマト運輸から委託を受けている個人事業主らが加盟する全日本建設交運一般労働組合(建交労)軽貨物ユニオンの委員長・高橋英晴だ。

ニュースで契約終了を知る

高橋の元には、個人事業主から次々とメールが寄せられた。

「15年ほぼ休まずに配達してきました。暑い日も、寒い日も毎日頑張ってきました。事前に説明もなく、ニュースで契約終了を知りました。これからの生活がとても心配です」(埼玉県の個人事業主)

「1回呼び出されてプリントを渡され『決定事項ですので、何か言っても決定は変わりません』とだけ言われ、5分もしないで説明が終わりました」(宮城県の個人事業主)

「突然リストラ通告を受けました。かなり横暴な仕打ちだと思っています」(山口県のパート社員)

メールを読み、高橋は憤りを感じた。「当事者なのに契約終了前に、丁寧に説明しないこと自体がおかしい」

個人事業主の思いを代弁すべく、ヤマト運輸に団体交渉を申し込んだが、ヤマト運輸側は「(雇用契約を締結する)『使用者』ではない」として応じていない。そのため、東京都労働委員会(都労委)へ交渉に応じるよう救済を申し立てた。

24年2月、都労委から促される形で、ようやくヤマト運輸は組合員3人と団交ではない個別交渉の形で、対応したところだ。

一連の問題では、ヤマト運輸の茨城県の物流拠点で働くパート社員が契約終了の撤回を求めて新たに労組を結成する動きも出た。

高橋は「どのような立場の人であれ、会社と対等に話し合える権利がある」として今後も支援を続けていく構えだ。

アマゾンAI支配に反旗

24年1月16日、アマゾンジャパン(東京・目黒)が個人事業主と契約を結んで荷物配送を委託する仕組み「Amazon Flex(アマゾンフレックス)」のドライバーが労組「アマゾンフレックスユニオン」を結成。アマゾンジャパンに団体交渉を申し入れた。その理由の一つに人工知能(AI)による労働者の支配に対する懸念がある。

アマゾンから荷物の配送を請け負ったドライバーは、スマートフォン専用アプリが指示する量の荷物を車両に積み込み、同じくアプリの地図上に示された配送先を、指定された時間内に回る必要がある。荷量と配送先はAIによる独自のアルゴリズムで決められている。

与えられた荷量を時間内にさばくのは簡単ではない。「食事する時間どころか、休憩する暇もない」「トイレを我慢してぼうこう炎になった」。悲痛な叫びがドライバーから相次ぐ。

アカウント停止で仕事がゼロに

アマゾンフレックスのドライバーは自由な働き方に魅力を感じ、参入してきた。だが現実は、プラットフォーマーとAIの支配下に置かれ「頑張れば頑張るほど高いノルマを課され、首を絞められる」とあるドライバーは話す。

その上、ミスは許されない。遅延や誤配が続くとドライバーはアカウントを停止され、次回から仕事ができなくなる。その基準が開示されておらず、ドライバーは何とか目標を達成しようとストレスやプレッシャーの中で日々の業務をこなしているという。

改善を求めるにしても相手はグローバルな巨大企業だ。そこで労組を結成し、団体交渉で仕事量や報酬の透明性を求めることにした。

対するアマゾンジャパン側に団体交渉に応じる姿勢は今のところない。個人事業主のドライバーについては、雇用関係を結ばず単発で仕事を請け負う「ギグワーカー」の一種と見なす。労組は交渉力を高めるべく、今なお、組織の拡大に注力する。

個人事業主の配達員を巡っては近年、労働委員会などが働き方の実態をみて「労働者」と認定し、権利保護を強める流れが出ている。22年には都労委が食事宅配サービス「ウーバーイーツ」の運営会社に労組との団体交渉に応じるよう命じた。

ヤマト運輸同様、労働運動の高まりは企業の垣根を越えて働く労働者にも波及している。

=文中敬称略

(日経ビジネス 小原擁、飯山辰之介)

[日経ビジネス電子版 2024年2月27日の記事を再構成]

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