成長が続く東南アジア諸国連合(ASEAN)の中で、消費のけん引役となりつつあるのが、「新興富裕層」と定義される人たちだ。中間層から一歩踏み出し、より豊かな生活を目指して努力を続ける人々の姿は、国民の新たな目標だ。

「幼い頃、両親とともに厳しい生活を強いられていた。これ以上、家族につらい思いをさせたくない」。そんな思いを原動力にさらなる豊かさを求めて働くのが、ASEANの新興富裕層の特徴だ。

博報堂生活総合研究所アセアンの調査では、新興富裕層の月収をタイであれば日本円で約27万〜62万円と定めた。自営業者や、大企業の社員らも該当する。

調査によると、ASEANの新興富裕層のうち53%が一般的な家庭の出身だ。経済成長の著しいASEANにおいて、「頑張ればお金持ちになれる」と考える人は多い。そして家族も大事にする。

富裕層とは異なる堅実さ

新興富裕層が関心を持つものの一つが家電。高性能の商品になればなるほど財布のひもは緩くなる。マルチクッカー(自動調理器)や、掃除ロボットなど、家事の時短につながる家電を欲しがるという。

堅実性も持ち合わせている。医療保険が高額で加入率の低いASEANにおいて、家族が大きな病気にかかれば一気に家庭の貯蓄が無くなることもある。将来不安への備えも欠かさない。この点は根っからの富裕層と大きく異なる点だろう。

この堅実性は、消費行動にも表れている。ブランドよりも、長持ちするものを購入する人の割合が51%と、日本全体の指標より19ポイントも高い。耐久性が高いことは無駄な消費を抑えるだけでなく、リセールバリュー(再販価値)にもつながる。

日本のイメージはどうなのか。新興富裕層は日本製品について「優れた品質を持つ」とのイメージを持つ人が61%と多く、富裕層の51.3%と比べても高い。この点は日本企業にはありがたいが、近年は中国や韓国のイメージも上昇傾向にあり、油断は禁物だ。

情報感度も高い。ビジネスチャンスを逃すまいと、常にアンテナを張り、スマホを操作する。SNS(交流サイト)管理システムを提供するカナダのフートスイートの2019年の報告書によると、インターネットの平均利用時間はフィリピンが1日10時間2分で、国別の首位だった。3時間45分だった日本とは大きな差がある。ASEAN勢ではタイとインドネシアも上位に入った。

社会問題や環境問題に対する意識の高さも特徴だ。経済成長が続く一方で大気汚染などにも日々直面し、当事者意識は高い。そのため、SDGs(持続可能な開発目標)をアピールするような商品はSNS上でも頻繁にシェアされ、消費者に刺さりやすい。

ASEANの新興富裕層は、ある程度の高い収入を得ていても、無駄遣いをせず、現実的かつ戦略的な買い物を徹底していると言える。日本企業がASEANで勝つには、こうした新興富裕層の消費動向を捉えることが不可欠だ。

(日経ビジネス 齋藤徹)

[日経ビジネス電子版 2024年4月25日の記事を再構成]

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