飲料や酒類のブランドの世界観に浸れる施設が人気を集めている。新型コロナウイルスが5類に移行して1年以上たち、行動制限のない日常に慣れた消費者は失った時間を取り戻しに動く。特別な料金がかからず、都会の街歩きの途中で特別な体験ができることも足が向く理由のようだ。
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「ジェットコースターに乗ってるような気分。映像を見た後にビールを飲んだらよりおいしく感じられた」。アサヒビールが4月、東京・銀座にオープンした「SUPER DRY Immersive experience(スーパードライ・イマーシブ・エクスペリエンス)」。缶の製造ラインに乗った視点で楽しめる映像「ゴーライド」を体験した20代女性は興奮した面持ちだ。
高精細「4K」の映像に合わせて風が吹いたり椅子が振動したりする。体験の後はコラボするアーティストの音楽が流れる空間で、厳選された注ぎ手がつぐキンキンに冷えたビールが提供される。入場料はゴーライド体験とビール1杯、おつまみのポップコーン付きで700円。
「銀座の居酒屋で飲んでも1杯700円はする。待っている間もワクワクできてお得感がある」(20代女性)。9月末までに3万人の来場を見込んでいたが、7月中旬ですでに2万人を突破した。
「東京23区内にブルワリーがあるってすごいことだ」。4月に開業した「YEBISU BREWERY TOKYO(エビス・ブルワリー・トウキョウ)」(東京・渋谷)に一番乗りだった50代の男性は語る。サッポロビールのグッズに身を包み、オープン2時間半前から列に並んだ。
小規模ながら東京・恵比寿で36年ぶりにビール造りを再開した。主力ビール「エビス」の歴史を感じながら堪能できる。12月までの初年度は20万人の来場を見込んでいたが、6月末時点で10万5000人が来場。開業3カ月で目標の5割を超えた。同社マーケティング本部長の武内亮人氏は「SNS全盛期で情報があふれ過ぎていて吟味するよりまず試す。ダイレクトに体験することでブランドの好き嫌いを判断する消費傾向が強くなってきている」と分析する。
緑茶飲料「綾鷹」を手掛ける日本コカ・コーラは、4月に開業した商業施設「東急プラザ原宿 ハラカド」(東京・渋谷)の屋上テラスにブランド体験施設を期間限定で作った。雲と同じ大きさの粒でミストを作り、雲海に包まれるような写真映えする空間を演出。7年ぶりに刷新した綾鷹の「自分のリズムでいこう。」というブランドメッセージを若者に訴求した。
キリンビールは5月30日に東京・代官山のクラフトビール専門店「スプリングバレーブルワリー東京」を改装オープンした。クラフトビールの入門者向けの1階は色の違うビールを壁一面に配置するなど感覚的に世界観を楽しめる。スプリングバレーブルワリー社長の井本亜香氏は「ストーリーを持った商品に一人一人が共感したものが売れる時代」と話す。
ブランドの世界観に没入する施設が増えている背景には、為替の円安傾向でインバウンド客が増えていることも影響する。国内は人口減が避けられず、多くの消費財メーカーは海外でも自社ブランドを展開する。大和証券の守田誠シニアアナリストは「(体験施設は)企業にとってブランド価値を高めることにつながる。グローバル展開を狙うブランドにとっては面白いトライになる」と期待する。
(八木悠介)
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