「中小企業に大きなメリット」
6月、大阪市内で、短時間正社員の制度について学ぶ勉強会が開かれ、企業の経営者などおよそ20人が参加しました。
短時間正社員の制度は、育児や介護、それに大学での学び直しなどのためフルタイムで働くことが難しい場合でも、社会保険が適用されるなど正社員と同じ条件で働くことができるというものです。
勉強会では、「月60時間」や「週2日」の勤務など、極端に短い労働時間でも正社員として雇用できることが紹介されました。
また、企業側が導入に向けて就業規則や受け入れ態勢などを準備しておくことや、定年退職した人材の活用も期待できることなどが説明されました。
主催した団体によりますと、人手不足が深刻な地方の中小企業などにとっては、出産や育児などをきっかけに社員が離職するケースを防ぐだけでなく、短時間でも正社員として働きたい優秀な人材の確保につながるとしています。
一般社団法人「即戦力」の佐々木美香代表理事は「人材育成の面から見ても、短時間正社員としていろいろな会社で働いてもらうことで、社会に育ててもらえるという点で、中小企業にとって大きなメリットだ。フルタイムにも週2日の正社員にもなれるという形で、選択肢が増えていくとよい」と話していました。
実際に取り入れた企業では
「短時間正社員」としての雇用を実際に取り入れた企業もあります。
事務作業の代行などを手がける兵庫県芦屋市の企業では、「短時間正社員」の制度の導入に向けて就業規則を策定しことし4月から社員1人の雇用を始めました。
短時間正社員になった藤本亜希子さんは、子育てのほか、フリーランスとしての仕事も抱えていたことからフルタイムでの勤務が難しく、業務委託という形でこの会社で働いていました。
会社としては藤本さんに任せる業務が増えていたことから正社員としての登用を検討し、「短時間正社員」の導入を決めたということです。
就業規則で定められている労働時間は「月60時間」で、藤本さんのケースでは出社は週に1日で、残りは在宅勤務を行い、家事やフリーランスの仕事の合間を活用するなどして柔軟に働いているということです。
正社員になったことで社会保険が適用され、藤本さんは、「正社員の話をもらえたことは認めてもらえたということだと思うので本当にうれしかった。社会保険に入れたのはすごくありがたく、安心を与えてもらえるとその分頑張ろうと思えるのだと実感しました」と話していました。
制度を導入した「ママントレ」の須澤美佳社長は、「正社員としての登用後はさらに積極的になってくれて、今まで以上になくてはならない存在になった。中小企業にとって人材の確保は本当に大変で、週2日の正社員でもよいならば関われるという人も増えてくると思うので、優秀な人材を確保できる手段になると思う」と話していました。
「短時間正社員」の条件は?
「短時間正社員」について、厚生労働省は、フルタイムの正社員と比べて1週間の労働時間が短く、期間の定めのない労働契約を結んでいることや、時間当たりの基本給に加え、ボーナスや退職金などの算定方法が同じ職種のフルタイムの正社員と同じであることを条件として定めています。
育児・介護休業法で規定されるいわゆる時短勤務と違って短時間で働く理由に制限がないのも特徴で、キャリアアップのための自己研さんや定年退職後に短時間だけ働きたい場合など、幅広く活用することができます。
また、社会保険については、パートなどの非正規労働者の場合、週20時間以上働くなどの加入要件があるのに対し、「短時間正社員」は就業規則に規定などが明記されていれば、労働時間の長さにかかわらず加入できるとしています。
働く側にとっては労働時間を自由に設定しながら正社員と同じように安定した労働条件を得ることができる一方、企業側にとってはフルタイムでの雇用が難しい場合などでも柔軟に人材を確保できる制度として活用が期待されています。
普及に向けた課題は
一方、国の調べでは、短時間正社員の仕組みを導入している事業所の割合は2022年で16.8%にとどまっています。
これについて日本総合研究所の山田久客員研究員は、短時間正社員の働き方が日本では広がっていないという見方を示し、その背景について、「日本では、『正社員というとフルタイムで長時間労働だ』というステレオタイプな見方が意識や仕組みとして十分変わりきっていない点がある」と指摘しました。
その上で、短時間正社員の普及に向けて、「仕事が属人的になり、役割や範囲があいまいでは、短時間の労働者に仕事を割りふるのは難しいので、仕事をある程度標準化、共有化して同じ仕事を別の人ができる職場づくりが求められている」と話していました。
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