自動車や半導体関連の部品メーカーなどが、部品製造に使う金型を下請け企業に保管させていたことについて、公正取引委員会が相次いで下請法違反の勧告を出した。同法で禁じる「不当な利益要請」にあたると判断した。直接の取引価格以外でも「下請けいじめ」を厳しく取り締まる動きとして注目される。運送業などでも下請け企業に不利な業界慣行に目を光らせている。
トヨタ子会社にも勧告
公取委は5日、トヨタ自動車子会社、トヨタカスタマイジング&ディベロップメント(TCD、横浜市)が下請け企業49社に計664個の金型や検査用器具などを保管させていたことなどが下請法違反にあたるとして再発防止を求める勧告を出した。金型などの保管要請を巡る勧告は2023年3月以降、5例目となった。
金型は部品製造のための型枠のことで、金属や樹脂などの材料を流し込んで成型するために使われる。形状や大きさは様々で勧告事例の中には大きさが1立方メートル、重さが2〜3トンのものもあった。
「自社の敷地内ではスペースが足りず、倉庫や土地を借りて保管している」「廃棄申請してもなかなか認めてもらえない」――。24年2月に勧告を受けた自動車空調システム製造・販売のサンデンは下請け企業に計4220個の金型や治具を保管させていたとされる。保管用倉庫にも入りきらず、屋外に平積みにしている下請け企業もあったという。
公取委は他にも電子部品製造のサンケン電気、ニデック子会社の「ニデックテクノモータ」(京都市)に対しても勧告。両社は下請け企業に金型の棚卸し作業をさせていたことも違反認定された。
「不当な利益提供要請」を適用
金型の保管は、中小企業の経営を圧迫させる業界慣行として長年問題視されていた。国は2000年代前半から、実態調査や注意喚起を重ねてきたが、状況はなかなか変わらなかった経緯がある。公取委が下請法の「不当な経済上の利益の提供要請の禁止」を適用して勧告に踏み切った。
「買いたたき」や「代金減額」などの取引価格に直結する行為でなくても、下請けに不当な負担を強いる業界慣行は少なくない。公取委は近年、発注側の立場が強い傾向にある物流業界の慣行にも目を光らせる。
物流業界では、荷主の都合による長時間の荷待ちなど運送業務以外の作業が運送会社にとって負担になってきた。長年の取引慣行として続いてきたが、運転手の長時間労働につながっている。時間外労働規制に伴う人手不足が懸念される「2024年問題」も背景として、慣行の是正を訴える声は大きい。
公取委は6月、管工機材販売の橋本総業(東京・中央)を独占禁止法違反(不公正な取引方法)の疑いで立ち入り検査した。同社から販売店までの商品配送を委託されていた運送会社の運転手は夜間の積み込み作業なども担い、長時間労働が常態化していた。業務に見合った代金が支払われていなかった疑いがある。
下請法の対象拡大も
並行して法改正の議論も進んでいる。現在の下請法では荷主と運送会社の取引は適用対象にならない。下請法は独禁法に比べて迅速に違反認定や行政指導ができる利点があり、公取委は荷主と運送会社の取引関係も下請法の対象にできるように改正を検討している。
公取委が23年度に下請法違反で勧告・公表したのは13件で、過去10年で最多だった。公取委の向井康二官房審議官は「今後も積極的に執行していく」と強調する。勧告事案は企業名や違反行為の概要が公表されるが、企業が自発的に公取委などに申し出たうえで、一定の要件を満たせば勧告・公表をしない運用になっている。公取委によると、自発的申し出による処理件数は2023年度までの10年間で471件あり、計約49億円の原状回復が行われた。
向井官房審議官は「勧告は企業の社会的信用の低下にもつながりかねない。当たり前のように続けてきた取引慣行にも下請法に抵触するリスクがあり、企業内でも積極的にチェックしてほしい」と話す。
(藤田このり)
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