M&A仲介を通じて買収された中小企業をめぐって、契約で約束された経営者保証の解除がされないトラブルが相次いでいる。朝日新聞が把握した15件の事例を詳しく取材したところ、金融機関に事前の相談をしなかったケースが多く、仲介業者に口止めされた例もめだつ。成約を優先して売り手の利益が軽視されている恐れがあり、政府も改善に向けて動く。

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 15件すべての売り手が、保証の解除は「最も重要」か「事業・雇用の継続と同じくらい重要」だったと回答した。ただ、契約上は、保証解除やその手続きを譲渡後の義務と定めているのが一般的だ。

 借入額が最多の金融機関に対し、M&Aの検討や予定を契約前にまったく伝えていなかったのは9件あった。そのうち6件の売り手は、仲介業者側から「成約まで金融機関には言わないで」などと指示や助言を受けたとしている。

 朝日新聞の取材では、既存の融資を継続する前提のM&Aなら、契約前に金融機関へ相談すべきだと考える専門家も少なくない。とくに経営者保証を引き継ぐ場合は、買い手候補を紹介して信用調査も済ませ、必要な申請書類を準備し、契約と同時に記入する事例もある。

 M&Aのトラブル相談を受ける中川内峰幸(なかがわちみねゆき)弁護士はこう指摘する。

 「経営者保証の承継は、契約前の金融機関との交渉が重要だ。成約を優先して口止めするような仲介業者は無責任。事前に相談して金融機関が難色を示す取引なら、勇気ある撤退も視野に入れるべきだ」

 中小企業庁は仲介業者などに向けたガイドラインを今秋にも見直す方針だ。金融機関や専門家への事前相談を促す案などを検討している。金融庁も金融機関向けの監督指針を見直し、主要株主の変更を把握した場合には、経営者保証の解除方法などを説明するよう求める方向だ。(藤田知也)

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