地下鉄の出入り口で倒れた80代の女性を助けたのは、駅員だけではなかった。一人一人の日頃の訓練が、命をつなぎとめた。

 「エレベーターの地上出入り口で人が倒れている」。今年5月9日正午ごろ、札幌市営地下鉄平岸駅(豊平区)の駅事務室にいた駅員の小林郁也さん(30)は、乗客から知らせを受けた。モニターを確認すると、女性が仰向けで倒れている。すぐさま約60段の階段を駆け上がった。

 「大丈夫ですか!?」

 呼びかけ、肩をたたいたが、女性の反応は一切ない。携帯電話で消防司令員に状況を伝えると、心臓マッサージをするよう指示された。

 入社4年目。緊急時に備え、普通救命講習は2度受けていた。

 「自分が何とかしなければ」

 無我夢中で心臓マッサージを続けた。

 そのころ、駅に隣接するスーパー「東光ストア平岸ターミナル店」の城千晃店長(45)も緊急事態を察していた。

 サービスカウンターにいたチーフの東莉央さんに店内アナウンスを指示。自身も、店頭の青果売り場で、呼びかけた。

 「倒れているお客さまがいらっしゃいます!医療従事者の方、いらっしゃいませんか!」

 すぐに「看護師をしていた」という女性が名乗り出た。

 店からAEDを運び、措置中に女性の姿が周りから見えないよう、緊急用に常備していた毛布をカーテン代わりにした。

 東光ストアでは、地震・火災などの緊急時に混乱しないよう、指示する人を決め、連係の確認をしていた。

 救急隊が到着、女性は病院に運ばれた。豊平消防署によると、意識も呼吸もない状態だったが、一命を取り留め、すでに退院したという。

 現場で対応した平岸救急隊の尾間谷篤史隊長は「市民の方々の的確な救命措置がなかったら、今回の結果につながらなかったかもしれない。協力に感謝です」。豊平消防署は、感謝状を贈ることを決めた。

 駅員の小林さんは「本当に良かった。普通救命講習で人形相手でも心臓マッサージをやっていたのは大きかった。今後も、駅員としても、勤務外でも、人として救命につながる行動をとれたら」

 東光ストアの城店長は「命が助かったと聞いた時は本当にうれしかった。看護師のお客様は連絡先がわからないのですが、この場を借りて感謝を伝えたい。1人では対応できなかった。チームプレーの大切さを実感しました」と話した。(原知恵子)

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