メンタルヘルスの問題によって引き起こされる精神疾患は主にうつ病、適応障害、パニック障害などが挙げられる。しかし、こうした症状に至るには、必ず前兆がある。不調は突如として現れるのではない。見逃しているだけで、徐々にサインは出ているのだ。

本人が自覚していない場合も多いため、家族や職場の同僚、上司などの指摘によって見つかるケースも少なくない。

具体的にどんな不調が現れるのだろうか。人間はストレスを感じると、体・心・行動の3つに不調が出る。産業医の大室正志氏は「メンタルを崩す初期症状のほとんどは、体に出る」と話す。代表的なものとしては、不眠、頭痛、吐き気、慢性的なだるさなどの自律神経症状や消化器症状がある。

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より症状が重くなると、理由もなく涙が出たり無気力になったり、人とのコミュニケーションがおっくうになってくる。趣味を楽しめなくなったり、休日も疲れを取るためにほとんど横になっていたりしたら要注意だ。

仕事の仕方にも変化が出る。ミスが多くなったり、仕事のペースが遅くなったりしてはいないだろうか。加えてオンライン会議で顔を出さなくなった、常にマスクで顔を隠している、といった様子が見られる場合も危険信号と言えるだろう。大室氏は「メンタルの不調になると、業務の生産性は確実に落ちる。今まで1時間で終わらせていた仕事が、2時間かかるなどの変化があれば、注意しなければならない」と警鐘を鳴らす。

メンタル不調に抵抗感示す人

もし、自分の周囲にこのような「不調サイン」を出している仲間がいることに気づいたら、どのように声をかけて、対処すればよいだろうか。

メンタル不調に対する社会的理解が以前よりも進んだこともあって、精神科や心療内科のクリニックを受診する人は、若年層を中心に増加傾向にある。しかし、職場の管理職に就いていることの多い、中高年男性は「誰かに相談することは、弱い人間のすることだと考える向きが強いので、なかなか自分から行動を起こそうとは思わない」と、男性学が専門で京都大学と大阪大学の名誉教授、伊藤公雄氏は話す。したがって、自分がメンタル不調であると認めることに、抵抗を示す人も一定数いることを、きちんと理解した上で、対処するのも重要だ。

そこで、まずは体調を気遣う言葉をかけてみよう。間違っても「メンタルが弱い」「繊細」といった言葉を口にしてはいけない。精神的に弱いことを指摘された途端、心を開かなくなってしまうケースも考えられるので、あくまで「体が不調だと業務に支障を来すから、一度病院に行ってみたら」と、提案するようにしたい。

あくまで、具体的な体調に関する単語からコミュニケーションのきっかけをつくることだ。大室氏は「聞かれた方も体の不調についてなら会話がしやすい」と話す。そこで、OKワードとNGワードの具体例を下にまとめたので参考にしてほしい。

自分でうまく声をかける自信のない人は、職場の上長や人事部を経由して対応してもらうのも手だ。

会社に雑談スペースを

もっとも、職場の仲間の不調に気づくには普段からコミュニケーションを密にしておくことが前提だ。夜の飲み会が以前より減った今、企業は会話が自然に生まれる働き方や場所づくりについてコストをかけて考える必要がある。大室氏は「企業で雑談スペースがあればメンタル不調者が減るのでは」と話す。伊藤氏も「中高年男性の場合は、世代間交流の場に引き出すなどして、話しやすい機会を意識的に設けるべきだ」と指摘する。

社内部活など部署横断的に多様な年代と関わる活動も見直されている。企業は社員同士の自然なコミュニケーションを促す、新しい仕掛けを考えるべきだ。

(日経Gooday 原田寧々)

[日経ビジネス電子版 2024年4月16日の記事を再構成]

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