イランの街頭で建物に描かれた指導者らの壁画(15日、テヘラン)=ロイター

イスラエルとの関係が緊迫化しているイランで、大手総合商社が首都テヘランにいる駐在員の国外退避を進めている。三井物産は駐在員の安全を確認し、国外退避させることを決めた。住友商事は19日までにイラン駐在員の国外退避を終えた。

日本の外務省によると、イランにある日系企業の拠点数は2022年10月時点で22で、在留邦人数は440人だった。現地に拠点を持つ日本企業は駐在員や家族の安全確保を急ぐ。

丸紅もイランの駐在員を近隣国に退避させた。同社は同国での事業内容や影響を明らかにしていないが、周辺地域の情報収集が主な業務だったとみられる。伊藤忠商事は日本に一時帰国していた現地駐在員に対し、イランに戻らないよう指示を出した。イランへの出張も原則禁止している。

豊田通商は同国で事業はしていないが、情報収集などのためにテヘラン事務所に駐在員を1人置いている。日本に一時帰国中で、滞在を延長させている。双日も駐在員を退避させた。三菱商事はテヘランに拠点をもつが「現地駐在員をめぐる退避や出張などの対応は非開示」(広報)としている。

日本の外務省は14日、テヘランなどの危険情報を4段階で2番目に厳しい「レベル3」(渡航中止勧告)に引き上げた。イラン全土の危険情報が「レベル3」か最も高い「レベル4」(退避勧告)となった。

中東は日本にとってエネルギー調達の要だ。第一生命経済研究所の前田和馬主任エコノミストによると22年の日本の原油輸入先は94%が中東だった。サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)などが中心だ。イランからの直接輸入はほぼないとみられるが前田氏は「原油航路の要衝であるホルムズ海峡の封鎖となれば日本の原油調達懸念が急速に高まる」と指摘する。

日本郵船と商船三井、川崎汽船の3社はホルムズ海峡を通ってペルシャ湾内にコンテナ船や原油タンカー、自動車輸送船などを航行させている。3社とも警戒はしつつ、ペルシャ湾内の航行を続けている。

仮に原油価格が上昇すると日本経済への打撃も懸念される。野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは中東情勢の悪化で原油価格が10%上昇し株価の下落なども進めば、日本の実質国内総生産(GDP)が0.68%押し下げられると試算する。

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