記者会見には8人の全取締役が出席した(5日、東京都千代田区のダイドーリミテッド本社)

衣料品ブランド「ニューヨーカー」を展開するダイドーリミテッドは5日、東京都内で取締役全員が出席する記者会見を開いた。配当の引き上げなど新たな株主還元策に約130億円かかると明らかにした。山田政弘会長兼最高経営責任者(CEO)は「不動産の売却などの現行の経営計画でまかなえ、成長戦略への影響はない」と強調した。

同社は4日、25年3月期の年間配当を従来予想から95円積み増し100円にすると発表した。27年3月期までの3年間は年100円の配当方針を継続する。合わせて最大50億円規模の自社株買いの方針も明らかにした。同社は配当と自社株買いで最大134億円かかるとの試算を示した。

5日の記者会見で株主還元の原資には不動産の売却益を充てると説明したダイドー。不動産事業で保有する東京都千代田区のホテルと同文京区のオフィスビルの2件を売却する方針を既に示していた。売却益については「詳細な数字は答えられない」(山田会長)とした。

ダイドーは5月に発表した中期経営計画のなかで、不動産の売却益は成長投資やM&A(合併・買収)に振り向けるとしていた。山田会長は今回の大幅な増配などは「十分な投資余力を確保したうえでの意思決定だ」と説明。ただ当面保有する方針の神奈川県小田原市の商業施設「ダイナシティ」の売却といった新たな資金捻出の施策の説明はなく、今後のM&A戦略など投資計画を見直す可能性を残す。

不動産については6月27日の定時株主総会で取締役候補者を株主提案したアクティビスト(物言う株主)のストラテジックキャピタル(SC、東京・渋谷)もかねて問題視。SCの丸木強代表は総会後の記者会見で、ダイナシティの売却についても「再検討してもらいたい」と話していた。

SCは4月に旧経営陣への再任反対や不動産の売却を求め、独自の取締役候補を株主提案することを発表。主力のアパレル事業が不振で、11期連続の営業赤字を記録するなど業績の低迷が続いたためだ。5月には会社側も対抗して新たな人事案を公表。総会を経て会社提案から成瀬功一郎社長兼最高執行責任者(COO)を含む5人、株主提案から3人の取締役が選任されていた。

経営は刷新されたものの、不振が続く主力のアパレル事業の再建は課題として重く残る。今回の記者会見は物言う株主に推され、選任された3人を含めた取締役8人全員が横に並ぶ異例の光景となった。総会直前までの対立構造を払拭し、融和モードで構造改革に取り組む姿勢を強調した形だ。

山田会長は「選任されたその瞬間から会社提案、株主提案というのは総会以前の話になった。それ以降は経営を任されたチームとして意識を切り替えしっかり議論している」と述べた。株主提案から選任された中山俊彦取締役執行役員は「中計の達成に向け(取締役の)8人や現場の人たちと一緒に戦うという強い思いだ。アパレル事業の黒字転換に向けて頑張っていきたい」と話した。

ダイドーリミテッドが保有するオフィスビル(東京都文京区)

7月4日には旧村上ファンド系の南青山不動産(東京・渋谷)が共同保有者とあわせてダイドー株の5.14%を保有していることも分かった。山田会長は「村上世彰氏から面談の申し入れを受け、企業価値向上に向けやりとりをしてきた」とした。村上氏との具体的なやりとりを問われ、「不動産事業や還元など意見交換した」と答えるにとどめた。

ダイドー株は5日急伸した。制限値幅の上限(ストップ高水準)となる前日比150円(16%)高の1095円で取引を終えた。株主還元の拡充が好感された。

株主だけでなく、従業員や顧客を含めた多くのステークホルダーの期待に応えるには本業の立て直しは欠かせない。大株主との騒動を鎮静化し、腰を据えて再建に取り組む必要がありそうだ。

(太田聖哉)

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