厚生労働省は3日、公的年金の財政をチェックして将来の給付水準を見通す「財政検証」の結果を公表した。現役世代の手取り平均収入に対する年金の給付水準を表す「所得代替率」は、最近の経済情勢が続くと仮定した場合、2057年度に現在より2割近く下がる。国民年金(基礎年金)の給付減が主因で、底上げが急務になっている。(大島宏一郎)

 公的年金 国が運営する年金制度。20歳以上60歳未満の全員が加入する国民年金(基礎年金)と、会社員などが国民年金に上乗せして加入する厚生年金がある。年金制度は、現役世代が納める保険料を高齢者への給付に充てる「賦課(ふか)方式」で運営。年金の給付水準を測る「物差し」として、モデル世帯の高齢者の年金受給額が現役世代の平均の手取り収入に対し、どれくらいの割合かを示す「所得代替率」がある。

◆現役世代の平均手取りが増えても年金は伸びない

 財政検証は、物価や賃金の上昇率、労働力人口の変化や経済成長の見込みに応じ、年金財政がこの先100年にわたって維持できるかチェックするもので、5年に1度実施している。厚労省は今回、前提が異なる4通りの経済シナリオを仮定し、給付額を試算した。

モデル夫婦世帯の年金給付水準

 最近の経済情勢が続く中間的なシナリオ「過去30年投影ケース」では、所得代替率は2024年度の61.2%が2057年度に50.4%まで下がった。国民年金の月額が会社員の夫と専業主婦のモデル世帯で、13万4000円から10万7000円まで減る。厚労省の担当者は「基礎年金の水準低下が課題」との見方を示す。  所得代替率が低下するのは年金の伸びを抑える仕組み「マクロ経済スライド」があるからだ。少子高齢化で年金受給者が増え、保険料を払う働き手不足が懸念される中、年金制度の収支バランスを維持するのが目的。厚労省はこのシナリオでは、2057年度まで国民年金の抑制を続けるとした。

年金財政のイメージ

 ただ前回2019年の検証と比べ、高齢者や女性らの就労拡大により保険料収入の増加を見込み、所得代替率は少し改善している。  財政検証では、現行制度を改正した場合のオプション試算も公表。改正案別に給付水準がどう変化するかを示しており、政府は、改正案の焦点だった国民年金の保険料の納付期間を40年から45年に延長する案は見送る。社会保障審議会(厚労相の諮問機関)の部会で、このほかの改正案の可否を決め、来年の通常国会で関連法案の提出を目指す。 

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