東京 新宿区にある書店では、新紙幣の発行をきっかけに渋沢栄一への関心が高まっていることを受けて、店の入り口に近い売り場の1階で渋沢栄一に関する書籍を集めて販売しています。

並べられているのは、経済活動と道徳の両立が重要だなどと説いた渋沢栄一の講演内容をまとめた書籍「論語と算盤」を現代のことばに訳したものや、漫画で紹介したものです。

紹介した店によりますと、これらの本は若い人も含め、幅広い世代の人たちが手に取っているということで、新紙幣の発行を目前に控えた先週には、販売された本の数が、前の週と比べて8倍ほど伸びたものもあったということです。

紀伊國屋書店新宿本店で販売促進などを担当する竹田勇生課長は「紙幣が変わるタイミングで、渋沢栄一さんに対する関心が高まり、多くのお客さんが手に取っている。『論語と算盤』自体は、ビジネスだけでなく、人としてのありかたや、社会の公益性を結び付けて考えていく一冊で、これからの社会のニーズに合っていることから、多くの人に関心をもってもらっているのではないか」と話していました。

相談役務めた会社では「論語と算盤」を経営の基本理念に

新しい一万円札に肖像がデザインされている渋沢栄一は、その思想などがまとめられた書籍「論語と算盤(そろばん)」の中で、経済活動と道徳を両立させることが重要だと説いています。

大手ゼネコン「清水建設」は、創業期の明治から大正にかけて渋沢栄一が相談役を務めた時期がありました。

この会社では、「論語と算盤」を経営の基本理念としていて、会社では新入社員に「論語と算盤」の内容を要約した冊子を毎年、配布しています。

インタビューで宮本洋一会長は「『論語と算盤』の考え方が、顧客第一で誠実なもの作りを行うという、会社が大事にしてきた精神と同じだと考えている。いいもの作りをして、きちんと社会に貢献し、そのうえで利益をいただくという考え方が、やはり大切だということだと思う。経営判断をする際は、渋沢さんに指導いただいた考え方が常に根底にある」と述べました。

また、7月3日から新たな一万円札が発行されることについて、宮本会長は、「近代日本の経済の礎を作ったのは渋沢さんだと思っている。会社が渋沢さんの顔が入った一万円札を利益として多くいただくためにも、前提として『論語と算盤』の考え方を忘れないようにしたい」と話していました。

会社では研修などを通じ、渋沢栄一の考え方や論語について学ぶ機会を設けているということで、宮本会長は「こうした取り組みを日常的に行うことで、若い社員にも、その考え方を根づかせていきたい」と話していました。

渋沢栄一の「やしゃご」の男性は

渋沢栄一が説いた「論語と算盤」の思想を書籍などを通じて学ぼうとする動きが広がっていることについて、渋沢栄一の子孫の男性は、新たな時代に向かう流れの中で、その考え方が受け入れられているのではないかと話しました。

渋沢栄一の「やしゃご」で、経営アドバイスなどを行う会社の代表取締役を務める渋澤健さん(63)は、渋沢栄一の肖像が新しい一万円札にデザインされることについて「とても光栄なことだ」と述べました。

そのうえで、「論語と算盤」の思想で印象的なのは、お金の使い方に関する点だと述べ、「お金は、ただためるだけでなく、投資や消費、寄付などで循環することが役割だとしている。お金が巡ることで、自分だけでなく取引先やお客さん、いろいろな人が豊かになる、それを若い時からわかっていたのではないかと思う」と話していました。

さらに、いま「論語と算盤」が再び読まれていることについて、「栄一が活躍した時代は新しい時代で、いま読まれているとなると、これからの日本は、失われた30年を経て新しい時代に向かっているかもしれない。『論語と算盤』の中では、世の中が持続可能に繁栄するには経済も必要だし、道徳観なども大切で、これらを合わせることによって新たな価値を作ることができるとしていて、そのような時代の流れになってきていると思う」と話していました。

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