異常気象が頻発し、気候変動への対処は待ったなしだ。カーボンニュートラルへの取り組みを加速する必要があるが、同時にSDGs（持続可能な開発目標）が掲げる17の目標実現には、誰もがいつでもエネルギーを使えなければならない。脱炭素社会と安定供給の両立へ、新たな技術を社会につなぐエンジニアリングの力が求められている。
エネルギー安定供給と両立
日本の最北端に近い北海道豊富町に2023年3月、「蓄電所」が完成した。蓄電所とは聞きなれない名称だが、再生可能エネルギーの有効活用へ切り札となる施設である。建屋の中にはリチウムイオン電池が隙間なく並び、約6万5000世帯（2人世帯換算）がまる一日使う電力に相当する72万キロワット時の電力を蓄えることができる。
建設を請け負ったのが千代田化工建設だ。この蓄電所は、天候で出力が変動する風力発電の電力を調整して系統へ送る役割を担う。その結果として生じた余剰電力は電池にため、出力が低下した際には取り出して使うことで、より風力発電の電力を活用することに寄与する。
再生エネだけではない。カーボンニュートラル実現に向けて、脱炭素技術と新市場の開拓に向けた動きが加速している。千代田化工は燃やしても二酸化炭素（CO2）を出さない水素を、化学物質に変えて輸送や貯蔵をしやすくする「SPERA水素技術」を持つ。再生エネでつくった電力で水を電気分解してグリーン水素を生み出す水電解装置をトヨタ自動車と開発することでも合意した。
そのほか、CO2を回収して貯留したり、再利用したりするCCUSや、SAF（再生航空燃料）などエネルギー転換を必要とする多様な脱炭素技術の社会実装に取り組む。さらに千代田化工の強みはこうした技術を組み合わせてシステムを築き、全体最適を実現するエンジニアリングの力だ。
裏付けはこれまでの歩みにある。エンジニアリング産業では日本が国際的にプレゼンスを発揮してきた。けん引してきた千代田化工は、液化天然ガス（LNG）プラントで26件のEPC（設計・調達・建設）を手掛け、LNGの普及・定着に貢献してきた。関与したプラントの生産量は2億2000万トンを超え、世界貿易量の5割以上に及ぶ。
エネルギー移行期の燃料として、LNGの役割は今後も拡大する。米国で手掛けた生産プラントは原料ガスの冷却にガスタービンでなく、電動モーターを採用した。カタールで建設中のプラントでも原料ガス中のCO2を回収し、地下に貯留するなど、よりクリーンなLNGの生産を加速していく。
脱炭素社会への転換をチャンスととらえ、社会の「かなえたい」の実現を目指す。
（松尾博文）
千代田化工建設・太田光治社長「かなえたい」を共創
こうした変化の下で、顧客や社会が求める姿を課題解決力や技術力、社会実装力といった我々の強みをいかして形にする。この思いを「社会の"かなえたい"を共創（エンジニアリング）する」とのパーパスに込めました。
2024年度から3年間を対象とした中期経営計画を策定中です。30年に向けてパーパスを体現していくために、この3年は多様な事業ポートフォリオの確立と、収益力の向上を重点に位置付けます。
同時にESGの観点から取り組むべき課題として、E（環境）では環境負荷低減社会の実現を定めます。S（社会）では豊かで健やかな生活の実現や、多様な人財が価値創出にチャレンジできる組織風土、社会課題に自律的に取り組む人財創出の実現を、G（ガバナンス）では公明正大な企業運営を掲げます。
これらの課題は当社の事業分野と密接につながります。たとえばより温暖化ガス排出の少ない液化天然ガス（LNG）の生産・供給を引き続きリードし、水素や二酸化炭素（CO2）の回収・貯留などの脱炭素関連技術の社会実装を通しカーボンニュートラル実現に貢献します。
医薬品などライフサイエンスや、脱炭素社会に欠かせない金属・先端素材の事業を育てることで、豊かで健やかな生活の実現につなげます。そのためにもしなやかなマインドセットで事業の変革に挑む人財にあふれ、自由闊達な組織風土を備えた企業集団となって、地球と人類にとってサステナブルで豊かな未来を創造していきます。
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