中国IT(情報技術)大手、華為技術(ファーウェイ)の車載事業が快進撃を続けている。中国の中堅自動車メーカー、賽力斯集団(セレス・グループ)と共同運営する「AITO(アイト)」ブランドは1月の新車販売台数が前月比34.8%増の3万2973台だった。理想汽車(3万1165台)や上海蔚来汽車(NIO、1万55台)などを抑え、電気自動車(EV)などの新エネルギー車を手掛ける中国の新興ブランドで初の首位に立った。中国・比亜迪(BYD)や米テスラなどの大手を加えても中国で5位にランクインした。
人気の理由の1つが自動運転技術だ。センサーなどのコア部品やOS(基本ソフト)はファーウェイが提供しており、AITOブランドの新エネルギー車には「ADS 2.0」と呼ぶ先進運転支援システムが導入されている。「(IT大手である)ファーウェイの自動運転技術が入っているのは心強い」と、ファーウェイの販売店でAITOブランドの新エネルギー車の購入を検討する上海在住の30代男性は話す。
AITOだけではない。ファーウェイは自動運転技術を武器に提携先を拡大している。中国自動車大手の奇瑞汽車と共同で「LUXEED(ルクシード)」というブランドを新たに立ち上げ、23年11月には第1弾のEVを発売した。重慶長安汽車のEVブランド「アバター(阿維塔)」にも自動運転技術を提供しており、「仲間作り」を急いでいる。
自動運転部品の納期が遅延
中国の新エネルギー車市場での地位を確立しつつあるファーウェイだが、足元では「売り」である自動運転技術に問題が生じているもようだ。
ロイター通信によると、AITOやLUXEED、アバターの最新車種で自動運転の関連部品に納期の遅延が発生しているという。ファーウェイ自身は明らかにしていないものの、AITOの販売員は「最新車種である『M9』の販売は好調だが、納期は2カ月先になる」と話す。
実際、納期遅延に対して補償を明らかにするブランドも出ている。長安汽車のEVブランド・アバターは1月下旬、部品供給が大きな困難に直面していることを明らかにしたうえで購入者への謝罪を表明した。納期遅延に対して1万5000元(約30万円)を上限に1日当たり200元(約4000円)を支払うほか、ADSのプレミアムサービスを6カ月間無料で利用できるようになるという。
中国メディアによるとLUXEEDブランドも同様に現金での補償を進めているという。自動車工場での生産も試験段階にあり、納期遅延は長期化する可能性もある。「売り」である自動運転関連の部品の納期遅延はファーウェイの快進撃に思わぬ水を差すことになりそうだ。
もっとも、自動運転技術にかじを切るのはファーウェイだけではない。中国の自動車各社が自動運転技術の搭載を加速し、ファーウェイを猛追し始めている。
注目を集めているのが「極越」だ。中国自動車大手の浙江吉利控股集団(ジーリー)と中国IT大手の百度(バイドゥ)が共同で運営するEVブランドである。23年10月末に第1弾となるEV「極越01」を発売した。
百度は22年8月に中国初となる完全無人運転のタクシーの商用サービスを開始した。IT大手が自動運転技術の開発を進める中でも、トップ集団に位置している。この技術を市販車にも活用し、第1弾となる極越01には自動運転タクシーで培った技術をふんだんに導入した。
自動運転システムには百度が手掛ける「Apollo(アポロ)」を使う。米エヌビディアの半導体を搭載しており、カメラやミリ波レーダーと組み合わせて運転支援を実現する。高速道路での車線変更や、障害物の回避、自動駐車などの機能を備えている。
「タクシーでの実績が強み。自動運転の性能は他社に負けていない」と上海市内の極越の販売員は語る。後発ながらも巻き返しを図る考えだ。
BYDはLiDAR搭載車種を一気に投入
さらに世界の新エネルギー車市場を席巻するBYDも自動運転技術の強化に動いている。同社は1月、運転支援技術の開発状況について発表。24年に車両周辺の状況把握に使われる高精度センサー「LiDAR(ライダー)」を搭載した車両を10車種以上発売することを明らかにした。
BYDは電池などに強みがある一方で自動運転分野は遅れが指摘されていた。23年夏には本社を置く広東省深圳市から高速道路での走行実験の認可を得ており、自動運転での出遅れを挽回していく考えだ。
破竹の勢いで急拡大してきた中国の新エネルギー車だが、足元では一服感が出てきた。中国自動車工業協会の予測では、24年の新エネルギー車の販売台数は前年比2割増にとどまる見通しだ。依然として100社以上の自動車メーカーがひしめく中、他社との差異化に向けて自動運転技術の開発が加速することになりそうだ。市販車の自動運転技術で快走するファーウェイの思わぬ納期遅延は、その勢力図を変える可能性がある。
(日経BP上海支局 佐伯真也)
[日経ビジネス電子版 2024年2月21日の記事を再構成]
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