歌舞伎座(東京都中央区)の観劇土産として人気を博しながらも、創業者夫婦の死去に伴って昨年末に閉店した江東区のつくだ煮専門店「佃宝(つくほう)」。初代から製法を学んだ元役員が先月、秘伝の味も店名も受け継ぐ新店舗を練馬区春日町で始めた。

佃宝の味も、店名も受け継ぐ新店舗を開業した鈴木正信さん=練馬区で

◆「シブいねー」は褒め言葉

 西武豊島線、都営大江戸線の豊島園駅から徒歩約10分の住宅街に、つくだ煮の甘い香りが漂う。アサリ、タケノコなど七つの食材が入った「佃宝煮」や細切り昆布などが売れ筋。作りたてのつくだ煮を具材にしたおむすびも「完売御礼」の人気ぶりだ。  「『まさか、つくだ煮の店とは』『シブいねー』ってお客さんに言われて。僕には褒め言葉ですよ」。店主の鈴木正信さん(55)がほおを緩めた。  鈴木さんは、江東区東雲にあった1957年創業の「佃宝」で製造責任者を務めた。添加物を使わず、素材の良さを生かす優しい味つけが特徴で、初代の故水谷豊夫さんから教わった秘伝の製法を30年余にわたって実践してきた。

◆「続けて」先代の願い

添加物を使わない初代の味付けを受け継いだ商品を作る鈴木さん=練馬区で

 しかし初代の妻で、2代目の秀子さんが昨夏に亡くなり、相続などで閉店が決定。開業資金が限られる中で、自宅に近い練馬区で好物件がやっと見つかったという。「2代目が病床で何度も『続けて』って。かなえることができて本当によかった」と鈴木さん。  営業は午前6時半~午後3時(火、水曜日定休)。目指すのは作りたてをその場で提供する店づくりだ。  鈴木さんは言う。「佃宝の歴史も味も、支えてくれる従業員もこの店の宝。創業者夫婦が育んできたつながりを、ここで広げていきたい」(石川修巳) 

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