◆バブル期並みの水準に
麻布台ヒルズの住宅棟(右)は国内外の富裕層からも注目されている=昨年11月、東京都港区で(平野皓士朗撮影)
新築マンションの平均価格が平均年収の何倍に相当するかについて、同研究所が公表する都区部の価格を、総務省による家計調査の実収入(都区部の勤労者のいる2人以上の世帯)で割って算出した。23年は平均価格の1億1483万円を、実収入881万円で割ると13倍で、バブル期の1989年(12.9倍)とほぼ同じだった。 2000年は6.5倍と住宅を購入する際の目安価格「年収の5~7倍程度」に収まっていた。その後、倍率が拡大したのは、マンション価格が2.4倍上昇したのに比べ、実収入の伸びが1.2倍にとどまったためだ。マンション価格の高騰は地価のほか、円安などによる建築資材の価格や人手不足による人件費の上昇が原因に挙げられる。◆買い手は高収入カップルや中国人の富裕層
現在のマンション開発は大手事業者が中心だ。三菱UFJ信託銀行不動産コンサルティング部の舩窪(ふなくぼ)芳和氏は「資金力があり、売り急がないため、費用をおおむね価格に転嫁できている」と話す。 価格高騰の原因は販売側の事情だけではない。日銀の金融緩和による低金利で高収入の夫婦がそれぞれローンを組みやすくなるなど購入しやすい環境になっている。また中国人の不動産業界関係者は「東京のホテル代が高くなったので、1億円くらいのマンションを買いたいという富裕層が中国にはいる」と明かす。◆無理な購入…金利上昇リスクに注意
この結果、舩窪氏は「一部の富裕層を除き、住居用に買いたくても、価格上昇についていけない層が拡大している」と指摘。ただ投資目的の不動産購入もあって価格の高騰が続いている。 一方、年収に占めるローン返済額の比率が上昇しており、無理なマンション購入は生活をさらに圧迫する恐れがある。日銀は4月の金融システムリポートで「所得減少や金利上昇に対する耐性が低い家計債務者が一部で増えている」と指摘。金利上昇した際の懸念を示唆している。 ◇ ◇ 東京都区部の新築マンションの平均価格が、都民の平均年収の13倍に上り、バブル景気時とほぼ同じとなっていることが判明した。一般の人の手には届きにくくなっているマンション市場について、不動産プロデューサーの牧野知弘氏に聞いた。(聞き手=白山泉)◆一般人を対象にしていない
—都心の新築マンション価格が上がっている背景に何がある?「都心のマンションは土地と建築費の上昇で総額が上がっている。一般の人は給料が上がったといってもすぐに消える程度で、購買力は上がっていない。購入しているのは、大半が富裕層や投資家、相続税対策でマンションを買う人。そして一部の高収入カップルだ。今の都心の新築マンションは一般人を対象にしていない」
都心のマンションの動向について語る不動産プロデューサーの牧野知弘さん
—では一般的な世帯はどうすれば良いか。 「富裕層の相場に普通の人が付き合ってはいけない。新築が良いという価値観が変わり、本当に家を買いたい人は既に中古に流れている」◆世田谷や杉並の中古が市場に
—この先、住宅市場はどうなる? 「戦後、農村から大都市へ人が移り住んだ時代に多くの人が住宅ローンを借りて家を建てた。これからはこうした家の中で相続が起こり、都区内の世田谷や杉並などのマンションや戸建てが売却または賃貸として大量にマーケットに出てくる」 「一方、都心の赤坂や六本木、麻布などは資産価格が上下するだろうが、対象は富裕層だと認識するべきだ」 —日銀が今後、金利を引き上げるかどうかも気になる。 「少しでも金利が上がると、『マンションを買った方が良い』というマーケット心理が一瞬で消えることがあるのが不動産市場だ。国内外の投資マネーの動きが変わり、投資家が投げ売りする可能性もある」牧野知弘(まきの・ともひろ) 東大経済学部卒。1983年、第一勧業銀行(現・みずほ銀行)入行後、ボストンコンサルティンググループなどを経て独立。オラガ総研を立ち上げ、全国の不動産プロデュースを行う。著書に「なぜマンションは高騰しているのか」など多数。
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