東京・五反田のTOCビルは30階建ての超高層ビルに建て替える計画が先送りとなった

ビルの建て替え工事が先送りになるケースが相次いでいる。資材の価格指数が過去最高を記録し、人手不足も相まって建設事業者は採算性の高い工事に人手を優先して回している状況だ。足元の国内建設受注額は過去20年間で最高額だが、資材高と人手不足で今後は受注量の減少が見込まれる。旺盛な建設需要に応えられなければ、都市計画に影響が出る。

TOC、10年先送り

「ビルを閉館すると言われたから移転先を探したのに……」。東京・五反田にある築50年超の複合施設「TOCビル」で店舗を経営していた男性経営者は困惑した様子でそう話す。完工時は卸売業が集まる日本最大級の商業施設として知られた同ビルは建て替えのため3月末に閉館すると伝えられており、店舗はすでに退去している。

ビルを保有するテーオーシーは4月、建築費の高騰などによって採算が合わなくなったため、解体の着工時期を直近に公表していた23〜24年から33年ごろに遅らせると発表。9月ごろにビル賃貸を再開する。この男性はすでに都内の別のビルに店舗を移転しており、「長年かけて作ってきた店なのだが」と肩を落とす。

JR北海道は札幌駅の再開発プロジェクトを進めていたが、完成時期を従来想定の28年度から最大2年遅らせる検討に入った。資材価格や人件費の高騰で事業費の圧縮が必要と判断した。すでに始まっているはずの駅前の商業施設エリアの解体工事にも着手できておらず、こうした一部工事も延期している状況だ。

千葉市では24年度中に着工予定だった市民会館(同市中央区)の移転新築計画が宙に浮いている。

JR東日本が千葉駅近くに複合ビルを建設し、ビル内に市民会館を新築する計画だった。想定よりも市民会館部分の建設費が膨れあがり、JR東が市に移転の見直しを打診。市は別の市有地への移転も含めて検討しており、市文化振興課は「(資材など)物価高騰が続いていることはよく承知しており、JR東の打診も受け止めた」と話す。

こうしたビル改修計画の見直しには資材の高騰がある。建設物価調査会(東京・中央)によると、24年4月の建築部門の建設資材物価指数は136.7(15年平均=100)と1990年1月の公表以来、過去最高を記録。21年6月まで100台で推移していたが、この3年間で30%ほど増加し、工事の先送りの要因となっている。

現場監督の求人数、31倍に

人手不足も深刻だ。建設業界では4月から残業時間の上限規制が導入され、特に現場作業を計画・管理する現場監督の人手不足が問題になっている。

リクルートの転職支援サービス「リクルートエージェント」の求人・求職データによると、現場監督の23年の求人数は13年からの10年間で約31倍に増えた。

土日や夜間を含めて長時間稼働する建設現場では、現場監督を交代で勤務させるためより多くの人手が必要になっており、リクルートの平野竜太郎シニアコンサルタントは「求人の伸びに採用が追いついていない状況」と話す。

人手不足は人件費の高騰に直結する。日本建設業連合会(日建連、東京・中央)によると、労務費の指標となる公共工事設計労務単価は24年3月に全国全職種平均で2万3600円と、前年同月に更新された2万2227円から6%増えた。約10年前の14年2月の更新分と比べて46%高い。

大手4社の受注高が減少見込み

建設コストの高まりは建設事業者の受注状況にも影を落とす。日建連によると、加盟社の23年度の国内建設受注額は22年度比9%増の17兆6646億円。過去20年で最高額だったが、今後は減少が見込まれる。

ゼネコン大手4社(鹿島、大林組、大成建設、清水建設)の受注高は25年3月期に計5兆1100億円と前期(同6兆4642億円)比で21%減る見通し。清水建設の山口充穂執行役員は「受注するかどうかを厳格に審査している。資材高騰に伴うコスト負担についても発注者と粘り強く協議する」と語り、採算性の高い工事を優先して受注せざるを得ない状況だ。

資材高がいつまで続くかも見通せない。鹿島の戸村武夫コーポレート・コミュニケーショングループ長は「資機材の価格は高止まりしており、今後も高い水準が続くとみている」と明かす。

資材高などを価格に転嫁できない中小企業を中心に、建設業の倒産も増えている。帝国データバンクによると、23年の建設事業者の倒産件数は1671件と前年比38・8%増。8年ぶりに1600件を上回ったほか、増加率が30%を超えるのは00年以降で初めてという。

建設業界は大手事業者が下請けに発注した工事が孫請けに発注される多重構造だ。中小事業者の減少は大手ゼネコンがさばける工事量の減少や規模の縮小にもつながる。情報統括部の箕輪陽介氏は「急激な事業者数の減少は進行中の工事の停滞や先送りを招く。人手を集めるのもさらに困難になり、都市計画に影響が出る懸念がある」と話している。

(橋本剛志)

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