履歴書や面接不要で、好きな時間に好きなだけ働くことができる…。近年、CMで目にする機会が増えた「スキマバイト」。求人、求職側がそれぞれスマホアプリに情報を登録し、自動的に仕事をマッチングする仕組みだ。自由な働き方として注目を集める一方で、専門家からは「労働者の権利を守るルール作りを」と求める声が上がっている。(山田祐一郎)

◆アプリ登録者は1500万人超

 「スキマバイトで働く人は、職場では最下層の存在。名前も呼ばれない」。4月24日に市民団体「非正規労働者の権利実現全国会議」が企画したオンライン集会で、フリージャーナリストの藤田和恵さんがこう切り出した。

マッチングアプリのバイト募集画面

 スキマバイトは、スポットワークとも呼ばれる。求人企業と求職者がそれぞれマッチングアプリに情報を登録し、短期間、単発のバイト契約を結ぶ。  アプリ業者などでつくるスポットワーク協会によると、2019年末に330万人だったアプリ登録者は、今年3月時点で1500万人超に。この背景について同協会は「勤務後に給料が即支払われ、コロナの影響で収支が悪化した人にとって魅力であるなど、企業と働き手双方のニーズがマッチした」と説明する。

◆スマホ一つでできる究極の不安定雇用

 「○○さん」「△△さん」。藤田さんがこれまで取材したスキマバイト労働者はマッチングアプリの名前で呼ばれるという。「労働者からは『どうせ1日限り。どうでもいいと思われている』という声が聞かれる。名前を呼ばれないのは、個別に認識されないということ。対等な関係ではなく、労働者の人権が奪われることにつながる」  現場ではトラブルも。藤田さんは「40代の男性はピザの宅配で契約したのに、店側に仕込みや電話応対、トイレ掃除まで要求された。断ると怒鳴られ、警察官を呼ばれた」「ファストフードの注文受け付けのはずなのに草むしりをさせられた」などの事例を挙げる。

渋谷を行き交う人々(写真は記事とは直接関係ありません)

 アプリでは、企業側、労働者が双方を評価するシステムがある。「理不尽な指示に、労働者が文句を言えば企業からは悪い評価が付けられ、その企業の求人が届かなくなる。最悪の場合、アプリ自体の利用もできなくなる。説明がないまま一方的に労働者に不利益な対応ができる」と藤田さんは問題視する。  東京新聞「こちら特報部」の取材に「コロナ禍以降、スキマバイトで生計を立てているという人が増えていると感じる。この働き方は副業や学生アルバイトには便利だが、例外的であるべきだ。スマホ一つでできる究極の不安定雇用が命綱になっている状況に、何らかの規制やルールが必要だ」と警鐘を鳴らす。

◆「実態は日雇い派遣だ。政府は違法状態を追認している」

 「派遣切り」「雇い止め」が社会問題化し、労働者保護のため、12年の労働者派遣法改正で30日以内の短期間の「日雇い派遣」は一部例外業務を除いて原則禁止された。  オンライン集会で龍谷大の脇田滋名誉教授(労働法)は「労働者に対する評価やペナルティー、賃金支払いなどをアプリ側が管理している。実態としてスキマバイトは日雇い派遣だ。政府は違法状態を追認している」と指摘し、こう強調した。「スキマバイトで企業側は、社会保険の手続きが不要な範囲で働かせることができる。企業が都合よく必要な時間だけ働かせるという法の隙間を利用した劣悪労働で、世界の流れに逆行する」  冒頭の全国会議で副代表幹事を務める中村和雄弁護士は、スキマバイト労働者から相談が寄せられているとし、「直前に仕事がキャンセルされても、評価が下がることを恐れて何も言えず、労働基準監督署などにも対応してもらえない」と話す。同会議は近く、スキマバイトの実態についてアンケートを行う予定だ。 

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