内閣府が16日に発表した2024年1~3月期の国内総生産(GDP、季節調整済み)速報値は、物価の変動を除いた実質の個人消費が前期比0.7%減少となった。個人消費は4四半期連続のマイナスとなり、「100年に1度の金融危機」と呼ばれたリーマン・ショック以来、15年ぶりの異例の事態。長引く物価高が消費者心理を冷やし、節約志向につながっている。(山中正義)

◆大震災時より長い消費低迷

 主力の個人消費の落ち込みで、今期の実質GDPは前期比0.5%減となり、2四半期ぶりのマイナス成長。年率換算は2.0%減だった。景気実感に近いとされる名目GDPは、前期比0.1%増、年率換算は0.4%増。  消費にブレーキをかけた一時的な原因は、自動車販売の落ち込みだ。認証不正問題による一部自動車メーカーの減産が響いた。インバウンド(訪日客)消費は好調だったが、統計上は輸出に含まれる。  個人消費が4四半期連続で落ち込んでいるのは、09年1~3月期以来。11年の東日本大震災などの際にも、消費の低迷は今回ほど続かなかった。

◆官房長官は「特殊要因が影響」

 マイナス成長について、林芳正官房長官は16日の記者会見で、自動車販売の不振のほか、能登半島地震など「景気の動きによるものとは言えない特殊要因の影響もあった」と話した。

林芳正官房長官

 第一生命経済研究所の新家義貴氏は「(個人消費の低迷は)賃金より高い物価高の影響が一番大きい」と強調。こうした状況下では「節約志向を強めざるを得ない」と指摘する。新型コロナウイルス禍で落ち込んだ消費の回復が一段落したことも重なっているという。  同時に公表された23年度のGDPは実質が前年度比1.2%増、名目は5.3%増でいずれも3年連続のプラスだった。    ◇   ◇

◆家計支出「10万円増」の試算も

 個人消費の低迷を引き起こしている物価高は、円安が要因だ。円安は輸出増で一部企業を潤わせる一方、仕入れ価格の高騰で中小企業の経営を圧迫。実質賃金の低迷が続き、一部企業と家計の「明暗が鮮明」(エコノミスト)となっている。

スーパーの野菜特売(イメージ)

 「投資に回す比率を増やした」。東京都内の20代会社員男性は、賃上げがあったものの年金制度など将来不安を漏らす。「備えあれば憂いなし」として目先の消費に慎重だ。  物価高は、原油高や円安に伴う原材料価格の高騰などが背景にある。生活必需品の値上げに加え、今後は電気・ガス料金に対する政府補助金終了による値上がりも控える。2人以上世帯の本年度の家計支出額は、前年度比で10万円余り増えるとの試算もある。

◆2年間下がり続ける実質賃金

 今年の春闘では大企業を中心に高水準の賃上げが実現したが、全体では物価高を上回るほどの勢いはない。雇用の約7割を占める中小企業への波及は道半ば。物価変動を考慮した1人当たりの3月の実質賃金は、前年同月比で24カ月連続マイナスとなり、過去最長を更新中だ。

3月期連結決算を発表するトヨタ自動車経営陣。営業利益は5兆3529億円と過去最高を更新した

 みずほリサーチ&テクノロジーズの酒井才介氏は10〜12月期には実質賃金が小幅なプラスに転じると予想する。それでも「消費につながるかというと悲観的にみている」という。第一生命経済研究所の新家義貴氏も「物価がかなり上がっており、(消費が)反転して上向くほどかは分からない」とする。  家計が厳しい一方、企業業績は好調だ。円安も輸出関連企業などに追い風となっており、SMBC日興証券によると、上場企業の2024年3月期決算の純利益合計額は過去最高の見通し。株価も今年に入り上昇を続け、直近でも3万8000円台の高水準が続く。酒井氏は「一部企業の高収益に対し、個人消費は景況感がにぶい。コントラスト(明暗)が鮮明だ」と景気の現状を説明する。

◆「減税」は対症療法に過ぎない

 1〜3月期の名目GDPの実額は599兆円(年率換算)に達し、安倍政権で20年ごろまでの達成を目指した600兆円に迫った。ただ、大企業の利益が中小にも流れてみんなが潤う「トリクルダウン」は起きていない。  政府は物価対策として、6月に1人当たり4万円の減税を行う。対症療法に過ぎず、賃上げ対策のほか将来不安を打ち消す抜本的な対策が政府に求められている。(山中正義)


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