米ボーイングは危機的状況からの脱出に向けて新興テックへの出資に乗り出している=ロイター
航空機大手の米ボーイングが苦境に立たされている。4月24日に発表した2024年1〜3月期決算では7四半期連続で赤字を計上するなど財務の悪化が顕著だ。そのほか1月には主力の小型機で事故が発生。5月には品質検査の結果を改ざんした疑いで米連邦航空局(FAA)が調査に乗り出した。消費者や航空会社の信頼が低下するなか、新興テックへの出資に乗り出し危機的状況からの脱出をはかっている。 日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週2回掲載しています。

航空機大手の米ボーイングは暗雲に覆われている。

同社はこの6年、自社の航空機の墜落や機体の爆発など大事故に見舞われてきた。その結果、消費者の信頼が低下し、航空会社との関係が悪化し、ライバルの欧州エアバスに売り上げを奪われている。

このため、ボーイングは経営陣を刷新し、製造品質の改善に取り組んでいる。例えば、製品の不具合に対処するために元子会社の米航空機部品大手、スピリット・エアロシステムズ(Spirit AeroSystems)の買収を検討している。

一方、防衛やサステナビリティー(持続可能性)などの分野も推進している。

今回のリポートではCBインサイツのデータを活用し、ボーイングの2022年以降の買収、投資、提携から4つの重要戦略をまとめた。この4つの戦略でのボーイングとのビジネス関係に基づき、企業を分類した。

・先端製造技術

・防衛システム

・デジタルインフラ

・持続可能な航空

米ボーイングの戦略図

ポイント

1.ボーイングは製造品質の改善に力を入れ、デジタル化を導入している。

2.宇宙物体の運用や利用状況、意図や能力を把握する「宇宙領域把握(SDA)」から拡張現実(AR)を活用したパイロットの訓練まで、防衛分野を強化している。

3.持続可能な航空に向けた多角的なアプローチを推進している。

製造品質の改善に力を入れ、デジタル化を導入

ボーイングは18年以降いくつもの大惨事を経験してきた。最近の投資は、同社が製造品質の改善に力を入れていることを示している。

同社は生産効率やコスト、品質管理を改善する工場のデジタル化を手掛ける企業に出資している。主な例は以下の通りだ。

・22年1月には製造アナリティクスや予知保全のプラットフォームを提供する米スパークコグニション(SparkCognition)のシリーズDラウンド(調達額1億2300万ドル)に出資した。

・22年にはオーストラリアのレックス・テクノロジーズ(LexX Technologies)に出資した。レックスは整備士向けの技術情報を一元化したプラットフォームの提供により、整備を効率化し、ダウンタイム(稼働停止)を減らす。

・23年には機械学習を活用して製造リスクを事前に検知する米アクシオン・レイ(Axion Ray)に投資した。

さらに、事業のデジタル化も進めている。22年4月にはアプリケーションをクラウドに移行してエンジニアリングや製造の取り組みを強化するため、米アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)及び米グーグルクラウドと提携した。グーグルクラウドとの提携により、ボーイングの開発者は航空機の製造を改善するためにデータ分析と人工知能(AI)ツールにもアクセスできるようになった。

ボーイングの製造分野以外の投資活動からは、航空機の運航のデジタル化を有望視していることがうかがえる。例えば、米プライベートエクイティ(PE=未公開株)ファンド、AEインダストリアル・パートナーズ(AEI)との提携ベンチャーキャピタル(VC)「AEIホライゾンX」を通じ、米ジュリアハブ(JuliaHub)に出資した。ジュリアハブはドローン(小型無人機)の誘導システム、航空機の衝突回避、宇宙探査計画の策定、ロボット制御など膨大な計算が必要なアプリケーションの開発を支えるプラットフォームを運営している。

SDAからパイロットのAR訓練まで防衛分野を強化

ボーイングは防衛市場を重視している。23年のこの分野の売上高は250億ドルと全体の3分の1を占めた。防空ミサイル防衛システムのほか、戦闘ヘリコプターや貨物機のような軍用機など様々な製品を手掛けている。

エアバスなどと組んでドイツにヘリコプター「チヌーク」を提供するなど、ここ数年は既存製品を強化している。一方、新たな取り組みにも乗り出している。例えば、米エクソアナリティック・ソリューションズ(ExoAnalytic Solutions)と提携し、オーストラリア国防軍のSDA強化を支援している。

さらに、最先端の軍事システムを開発する複数の企業に出資している。22年には軍用車両と装備の保護に特化した新興サイバーセキュリティー、米シフト5(Shift5)のシリーズBに出資した。

23年には戦闘機のパイロットを訓練するAR技術を開発する米レッド 6 AR(Red 6 AR)のシリーズB(7000万ドル)に参加した。両社は数カ月後、レッド 6のAR訓練システムを搭載した戦術航空機の飛行に成功した。

持続可能な航空に向け、多角的なアプローチを推進

航空業界はサステナビリティーを優先させ、温暖化ガス排出削減策を実施するよう圧力を受けている。ボーイングは様々な角度からこの要求に取り組んでいる。

例えば、ここ数年は持続可能な航空燃料(SAF)を手掛ける複数の企業と提携している。

・世界のSAF生産量を増やすため、米アルダー・フューエルズ(Alder Fuels)と提携

・SAFの使用が飛行機雲と二酸化炭素(CO2)以外の温暖化ガス排出量に及ぼす影響を評価するため、米航空宇宙局(NASA)及び米ユナイテッド航空と提携

・空気と水を原料とする英ゼロ・ペトロレアム(Zero Petroleum)のSAFの実証プログラムを構築するため、同社と提携

一方、環境に優しい航空機の開発にも力を入れている。22年1月には電動垂直離着陸機(eVTOL)を開発する米ウィスク(Wisk)に4億5000万ドルを出資し、23年には完全子会社化した。ウィスクは最近、米テキサス州シュガーランド市と提携し、同社のeVTOLの離発着場「バーティーポート」の開発について協議している。

NASAとボーイングは航空大手各社と提携し、燃料消費量とCO2排出量の削減が見込まれる単通路の次世代研究機「X-66A」をテストしている。

宇宙での電力供給も推進している。22年末には宇宙空間向け太陽光パネルを開発する米ソレスティアル(Solestial)のシードラウンド(1000万ドル)に参加した。

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